第84話

「奏乃!!」と、倭の声が聞こえたけど、私は無視して自分の家に戻った。倭が追いかけてこないように、自分の家の鍵を閉めた。


すぐに倭から電話がかかってきた。

だけど電話に出ることが出来なかった。

しばらく鳴って、切れて、鳴っては繰り返し。


それを何回か繰り返せば、電話はならなくなった。




私の気持ちを確かめるために、キスをしてきた倭…。


言わなかった私が悪いのか…。


でも、本当に言いたくなかった。


どうして倭は穂高にこだわるの…。


私は穂高を好きじゃないって言ってるのに…。


なんで信じてくれないんだろう…。





次の日、もう一度倭と話そうと思った。

何回も何回も言おうって。

中学の時、喋らなくなって離れてしまったから。中学みたいなことにならないように。


倭は誤解してる、私が穂高を好きと思ってるのは、亜貴が倭に嘘をついたから。

倭は、私が穂高に抱かれてると思ってるから。



私が倭に会いにくることを知ってるおばさんは、玄関の鍵を開けてくれている。いつも通りに朝、倭の火傷部分に薬を塗りに部屋へと向かった。



だけど部屋には誰もいなかった。

リビングかな?そう思っても人の気配はなくて。


まさか、と思って、もう一度玄関の方へ向かった。そこに倭の好きなブランドの靴はなくて…。



どこかへ行ったらしい。

どこに?

あの怪我で。

タバコでも買いに言ったのだろうか…。


そう思って倭の部屋でしばらく待っていたけど、倭は帰ってこない。



──…凄く嫌な予感がした。

倭に電話を鳴らした。

倭は出なかった。

ずっとずっと鳴らしてるのに、倭は出ない…。




電話を鳴らしながら、倭の部屋のクローゼットの中を開けた。



───…ない。



倭の制服がない。


清光高校の制服が、どこにもない。



やまと、まさか、学校に?

あの怪我で?

亜貴の言っていたことを思い出す…。

亜貴がやめたから?それで?



何度かけても繋がらない通話を切り、穂高に電話しようとして…。電話をしようとしたのに、もう誤解されたくない私は穂高に電話が出来なかった。




急いで制服に着替えて、清光高校に走った。


いま、亜貴が消え、、そこにトップはいない…。






校門まで来た時、見知った姿を見つけ、私は掴みかかった。「倭は?!」って。


息が上がる。

肩が上下に動き、上手く呼吸ができない…。



「お前…知ってたのか?あいつがやめた事」



穂高は、いつ聞いたのか。

自分の兄が学校をやめたこと。

目の前にいる穂高は、半分、私を睨んでた。



「…聞いてんのか」


「倭は…」


「いつ知った?」


「……」


「あいつから連絡きたのか?」


「……きのう、きた…」


「いま、中がどうなってるか知ってるか?」


「…え?」


「お前、来るの遅かったな」


「どういう意味…」


「俺が知る限り、倭のやつ、窓から3人投げたぞ?」




穂高の言葉をきき、私は顔をおさえた。

派閥のトップをかけた争い…。

大怪我をしてるのに…。

違う派閥の穂高も、止めることができない…。



「倭が刃向かえなかったのは、あいつだけだったからな…」



刃向かえなかったのは…。



────『倭は俺に似てる』



刃向えない人が、いない今……。




「とめてくる、とめなきゃ」


「やめとけ」


「っ、どうして…」

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