第82話

「…なんでそういうこと言うの…」


「お前が言わねぇから」


「倭には知られたくない…」


「知っても、お前のことは嫌わないって言ってるだろ!」


「嫌い嫌わないの問題じゃないの…」


「はあ?」



好きだから、言いたくないのに。

それをどう伝えればいいかわからない…。



「だったら晃貴には言うのかよっ」



どうして今、穂高の名前が出てくるの?



「俺が知らないことあいつは知ってるだろ!!」


「倭…」


「どうせ今回のことも、晃貴に言っただろ!!」


「亜貴さんのこと…?倭が怪我したのは誰でも知って…」


「じゃあお前から晃貴に言ってねぇんだな?」


「…それは」


「それは?それはなに、言ったんだろ?」


「……」


「前にお前、晃貴のこと好きじゃないって言ってたけど、俺には好きなようにしか見えねぇんだよっ」


「何言ってるの…好きじゃないって何回も…」


「だったら言えよ!!俺に!!」


「やまと…」


「お前、言っただろ、」


「なにを…」


「大っ嫌いって…」



ある、倭に、

入学前、〝今の倭は大っ嫌い〟って。

だけどそれは恋愛の大っ嫌いじゃない──…。



「晃貴が好きなのに俺に嘘つく意味分かんねぇ…」


「嘘じゃないって言ってるじゃん!」


「……」


「なんで、倭っていつも…、」


「……いつも?いつもなんだよ」



どうしてそう、誤解ばかり…。

好きじゃないって言ってるのに…。



「倭だって、私を信用してない、私は言いたくないって言ってるのにっ…」


「……なんで言いたくねぇ?」



なんで、そんなの…。

倭が好きだから…。



「……好きだもん、倭が…」


「……」


「だから言いたくない…」




倭が、ベットから立ち上がる気配がした。

うつむき加減だった私は、ゆっくり顔を上げた。至近距離の倭は…、私を見下ろしていた。



「……好き?俺を?」



ゆっくり頷く…。

正直に言ったのに。

倭に〝好き〟って言ったのに。

倭の顔は、全く嬉しそうじゃなくて…。



「晃貴じゃなくて? 大っ嫌いって言ったのに?」


「やまと…」



倭が右の手のひらが、私の後頭部にまわる。見えてしまうのは火傷をおった左腕…。

その腕を見てまた泣きそうになれば、倭の右腕に力が入った。



そのまま引き寄せられ、え?と思った時、倭の視線が私の唇にあるのに気づいた。



なんで……。

なんで、そんなっ…。



倭の胸元を押そうとして、咄嗟に私は倭の体に触れた。だけど押せなかった、倭の左腕が見えてしまったから。


私が倭の体をおせば、倒れた拍子で倭の火傷が酷くなるかもしれない。


そう思っていると、倭が私の口を塞いでいた。




初めてだった、

キスをしたのは。


犯されても、私はキスをしたことがなかった。



初めてのキスは倭だった。



なのに、なんで、こんなにも虚しいんだろう…。

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