第81話
亜貴が学校をやめる…。
亜貴は薬もなく、女を襲う事が当たり前の清光を無くしたいと言っていた。
だから私はそれに従った。
綾のことを大切に思っていた亜貴。
そんな亜貴は、綾やこれからの清光のためなら何でもした。
私を簡単に襲わせたし、躊躇いもなく倭に火をつけた。
派閥のトップがやめる──…
もう亜貴に、倭が傷つけられることはないけど…。
一体、派閥はどうなるのだろうか…。
穂高はこのことを知ってるのだろうか…。
夕方、倭の部屋に行けば、倭は誰かと電話をしているようだった。私が部屋へ来たことに気付いた倭は、「…また連絡してくれ」と電話を切った。
「…ごめん、電話中だった?」
「いや」
「いつ起きたの?」
「さっき」
私の方を見ずにスマホをさわる倭の髪には、寝癖がついていた。
そんな倭らスマホを裏ベットの上へ裏向きに置き立ち上がると「シャワー浴びてくる」と部屋から出ていった。
それから10分もせずに倭は戻ってきて、下は半ズボン、首にはタオル。
上半身裸のままタバコを口にくわえた倭はベットに腰かけた。
片側だけあぐらをかき、もう片側は床に足をつけている。
「まだ濡れてる、ちゃんと乾かしてきなよ…」
そんな倭に近づき、髪から雫が落ちてこないように首元のタオルで拭く。背中は初めの頃とはマシになったものの、まだ酷い…。
一生のこる傷跡…。
「薬ぬるよ?」
背中を見るといつも泣きそうにる。
倭は黙ったまま、静かに私が薬を塗布する中、タバコを吸っていた。
薬を塗り終わり、まだ血が滲み出ているところをガーゼをあてる。
「──…なあ」
薬を片付け、倭がタバコを吸い終わった頃、倭はその体勢のまま私を呼んだ。
「なに?」
「お前さ、」
「うん」
「…なんで俺んとこいんの?」
「え?」
倭の質問の意味が分からなかった。
なんで、俺のところにいる?
なんでって……。
今?
「前から思ってた、お前、なんで俺と一緒のとこ入ったんだって…」
亜貴の派閥。
どうして倭と一緒のところに入ったのか。
「……答えてくれよ」
答える…。
倭が心配だから。
穂高が黛派に入ったから…。
将輝派は嫌だったから。
答えようと思うのに、上手く言えない。
倭を止めるために亜貴派に入ったのに、私は倭に怪我をさせてしまった。
倭に穂高のことを言えばまた誤解を招いてしまう。
中学生の頃、倭を探している最中、将輝派に犯されたこと、倭には言いたくない。
黙っていると、倭は質問を変えた。
「襲われたの、亜貴さんが仕向けたんだよな?」
「……やまと…」
「亜貴さんが、お前に何命令したんだよ」
「……」
「言えよ」
倭以外の人と体の関係をもてと言われた…。
倭以外の人に好きと言った…。
「だいたい分かる、…でも俺はお前の口から聞きたい」
「……」
「…言いたくねえ?」
「……」
「……言えよ…」
「……わたし、やまとを傷つけたくない…」
ゆっくりと、私の方に振り向いた倭が、立ったままの私の手を掴んだ。
「俺だってお前を傷つけたくねぇよ」
倭が私の手を強く握る。
「…言って、…倭に嫌われるのも嫌で…」
「嫌わねぇよ、俺がお前を嫌うなんて絶対ない」
「……」
「……言えねぇの?」
「……ごめん…」
「その…」
「ごめんなさい…」
「分かった」
倭が私の手を離す…。
「やまと…、あのね、」
「お前は俺の事、信用してねぇんだな」
「違う…違うよ、倭のことは信用してるよ…」
「じゃあなんで言わねぇの」
「それは…」
「やっぱりお前、俺になんでも隠すよな」
「…隠してるつもりじゃない…」
「隠すだろ」
「やまと…」
「もういい、今日は帰ってくれ」
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