第78話

地元というのは、同じ小学、中学時代の人達と会う確率が高い。

たまたま駅で会えば、もしかするとほかの人たちは「久しぶり」と会話をするかもしれない。



私も会う。

ああ、あの人中学同じ人だ…って。

遠目からたまに目が合ったりする。



それでも私が清光の生徒だから、向こうは絶対に喋りかけてこない。なぜなら、関わりたくないから。



〝関わりたくない〟



その気持ちがいやでも分かるから、私は地元で同級生に会っても近づこうとしなかった。



もし、話しかけてくるとすれば、それは同じ清光の生徒だけ。




──…倭のガーゼを買いに地元のドラッグストアへ来た時、たまたま彼と鉢合わせした。彼も何か買いに来たらしい。

私の顔を見て、「聞いた…倭のこと」と、私に話しかけてきた。



穂高側の徹…。


学校に行っていない今、徹と話すのは本当に久しぶりで…。



「大丈夫なのか?」



倭のことを聞いてるんだろう。

穂高側でも、同じ同級生。



全然、大丈夫じゃない。



「…今は家で過ごしてるよ」


「亜貴さんがやったって…」


「……」


「…原田は大丈夫なのか?」



私…?

私はどこも怪我をしてない…。

全部全部、倭が庇ってくれたから…。

朝薬をぬった倭の背中を思い出す…。



黙り込んでいると、徹が「顔色悪いのに大丈夫じゃないよな…」と、よく分からないことを言った。



顔色?



「……学校来るのか?」


「倭が治るまではいかない…」



きっと倭は治れば、学校に行く…。



「その方がいいかも…今ちょっと晃貴も荒れてるから…」



荒れてる?



「え…?倭のことで?」


「いや、」



いい辛そうに、言葉を濁す徹。



「…亜貴さん?」


「……あの人も最近学校来てない、俺はあんまりよく知らねぇけど将輝さんと何かあったみたいで…」



将輝?

将輝って、あの将輝派?

私を初めてレイプしてきたあの派閥。

亜貴に首を絞められていた時、亜貴のところに来た男を思い出す…。



「穂高…何してるの?」


「……」


「教えて……」


「……うん」


「教えて…誰にも言わない…」


「…晃貴が、魏心会を狙ってるのは知ってるよな?」



知ってる。

戦力を増やしたい目的で…。

西高の〝火種〟。



「うん、火種って…」


「晃貴に聞いたのか?」


「…」


「晃貴ってさ、今まで女を雑に扱ってたけど、そういう暴力とかしなかったんだよ」



暴力?



「女って、穂高…、暴力したの?」


「そういう暴力じゃない、今まで晃貴は脅して関係を持ったりしなかった。まあ、やったら捨てるっていうのもどうなんだって感じだけど…」




そういう暴力じゃない。


脅して関係を持つ…。



「さっきの〝火種〟、下のやつらが拉致ってきた。山本聖の女の妹」



山本聖の女の妹…?


拉致…?


まさか、



「…襲ったの?」


「や、襲ってはない…。裸の写真撮っただけで…。だからそういうのも、晃貴したことなかったからさ、無理矢理っつーの…」



裸の写真?


裸の…写真…



「そいつ、市川真希って言って、俺らみたいなのと違ってマジで真面目な子で」


「…穂高が、撮ったの?それともほかの人?」


「…ああ、うん、晃貴1人で」



穂高1人…。



「それ山本に送って…」


「送った!?」



いきなりの大声で驚いた人が、私たちの方に振り向く。



「穂高が、裸の写真をとって…送ったの…?」






穂高は〝火種〟を見つけたらしい。


私の約束を守ってくれたらしい。


1人でするという約束を。

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