第77話

倭が治療室から出て、一般病棟にうつったのはそれから数日後だった。


倭は泣いている私を見た瞬間、「…悪い」と、どうしてか謝ってきた。



「……前髪、間に合わなかったな」



ほんの一瞬、燃えた私の髪。


髪ぐらい……。


髪なんて……。


倭の体は……。


倭の言葉に泣き、何度も何度も謝った。



一生残る傷をおった倭は、私を責めなかった。




倭が退院したのはその1週間後。

それでも絶対安静で、暫くは家にいなければならなかった。倭1人では薬を塗ることが出来ず、必ず誰かが塗らなけばならない。


倭は私が塗ることを許してくれなかった。それおばさんもだった。倭はどうにかして1人で塗ると言っていた。私にもおばさんにも背中を見せようとしなかった。



それでも毎日毎日言い続ければ、折れた倭が「腕だけな…」と、言ってくれた。



まだ治癒してない。

家の中での絶対安静。

倭が少しでも動けば皮膚が切れ、体液が流れる。それを拭きながらしなければならないから、たくさんの時間がかかった。

私が泣きながらしたから時間がかかったのかもしれない…。



「ごめんなさい……」


「その、」


「…ごめんなさ、…」


「奏乃」


「…ごめんなさい…」



倭は私にだけ背中を見せてくれた、

薬を塗るだけでも、倭は顔を歪めた。



「…痛いよね……ごめんね…」


「その、もういい塗らなくて」


「ごめんなさい…」


「……」


「ごめんなさい……」



倭は言う。「大したことじゃない」と。




「……やまと、」


「ん?」


「もう私を守らないで……」


「……」


「お願いだから……守らないで……」



このことに、倭は返事をしなかった。

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