第73話

視聴覚室にいい思い出がない。

倭には見られたくない。

それでも倭は私から離れないし、きっと亜貴は倭にもばらすだろう。



「お前、亜貴さんと何があった?」



視聴覚室に向かう途中、そう言った倭の声は怖かった。倭は亜貴のことをいい人だと思っている。中学時代、倭を助けてくれたって言ってた。


だけど、倭に、穂高に遊ばれたって嘘をついた。



嘘をつく。

亜貴は、いっぱい嘘を。

もしかすると、本当の中に嘘を交えているのかもしれない。そうすると嘘がバレないって聞いたことがある。


私だってそう。

倭に嘘をついた…。



──…嘘?

一瞬、嫌なことが頭に思い浮かんだ。


まさか、そんな…。




「…倭」


「ん?」


「…ううん、なんでもない」


「亜貴さんと何かあったかって聞いたんだけど?」



もし、倭の前で顔を燃やされたらどうなるんだろう。



「なんにもないよ、大丈夫」


「……」


「倭は間違えないで…」












視聴覚室につくと、その人はいた。

扉を開けた私を、まるで軽蔑のような、見下した目した人は、「来い、倭は入ってくるな」と鋭く言った。


言われた通りに入ろうとすれば、倭に腕を捕まれ。



「亜貴さん、こいつ何したんですか?」


「聞こえなかったか?」


「…やらかしたんですか?だったら俺が後始末してきます」


「後始末? なんだお前、代わりにケツの穴掘られてくるのか?」



ぴくりと反応した倭は、「…どういう意味だよ…」と私の掴む力を強めた。



亜貴は目を細めて笑うと、こっちに近づいてきて、私に向かって「出せ」と言う。

カバンの中にある昨日、買ったものを。



「離して倭」


「亜貴さん、あんたまさか、」


「離して!」


「離さねぇとこいつの骨折るぞ」



面白そうに言った亜貴を睨みつけた倭。

倭は「奏乃を使ったのか?」と声を怖くして言うと、亜貴は「誰に向かって言ってんだ?」と、私からカバンを取り上げた。



そこから昨日買った、バーナーとガスを取りだし、カバンを床に捨てる。



「なんでそんなもん、」

「亜貴さん、あの、聞きたいことがあるんです」



倭の前に出た私は、亜貴を見上げた。私の声は震えていた。どうかあれは、あれは…、私の勘違いであってほしいと。




『いや、連絡する。頭、つれぇなら家に帰るか保健室で寝てこい』



「襲うのが嫌いな亜貴さんは、…そんなことしませんよね…」



亜貴は、笑ってる。



「抱かれることを、慣れさせたりしませんよね?」


「やっぱりお前は賢いな、でも気づくのちょっと遅いな?」



目を閉じた私は、悔しくて、たまらなかった。

やっぱり、あの保健室の出来事は…。



「俺が使ったから掃除してこい、って言っただけ。それだけなんだけどな?」

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