第71話

「…あやって、高島綾のことか?」



まるで殺意のこもった目。

その目で睨みつけられ、弟だと分かっているのに、足が震えて仕方なく。



「今、あいつと俺を間違えたのか?」



私に殴りかかろうとしているのか、そんな態度を見せ、「やめろ、女だろっ!」と私に近寄ろうとしている男をとめる橋本薫…。



「離せ薫!!──…てめぇぶっ殺してやる!!」


「良!!」



綾と間違えたことに相当怒り。

余程強い力で高島良を抑えているのか、橋本薫の腕の血管が浮いていた。



「お前っ、もう行け!!2度と来るな!!」



私に向かってそう怒鳴った橋本薫。



「わ、わたし、」


「早く行け!!」


「てめぇ逃げんじゃねぇぞ!!」



今、逃げれば、私は失敗したのと同じなのに。失敗は許されないのに。


弟を、半殺しにした綾…。


今、命令されている私は帰るわけにもいかず、震える足で立ち止まっていると、



「お前のことは誰にも言わねぇから!! 行け!!」


「っ、てめぇ、薫!! 離せコラ!!」


「良っ、名前言っただけだろっ!」


「あんなやつ〝さん付け〟しやがって!! こいつ清光だろうが!!」


「違うかもしれないだろっ」


「顔 覚えたからな!!」


「痛っ、──何してんだ、早く行け!!」




橋本薫に大声を出され、私は唇を噛み締めた。



こんなの、もう、無理だよ…。



「……ごめんなさい……」



泣きながら呟けば、一瞬、高島良の怒りの目がゆれたような気がした。



けど、それは一瞬だけ。

すぐに鋭い目に変わり、「…名前言え」と低く呟く。



名前を言う訳にも行かず、もう1度、嘘をついてごめんなさい…と呟いた私は、怒鳴ってる高島良の声を背後にその場から離れた。






失敗した私に、亜貴から連絡が来たのは、それから2時間後だった。

私から言ったわけじゃないのに、『使えねぇな』とメッセージ届いた。



どこかで見張っているのか。

この人は、本当になんでも知ってる…。



『月曜お前の顔、燃やすから』



もう、私が清光の生徒だと、バレてしまったから…。証拠隠滅のために、私の顔を処理するらしい。


失敗した私へのお咎め。



『来ねぇと倭の顔 燃やす』




今更、謝っても…、どれだけ謝っても、無駄だろう。



『分かりました』



返信した私の指は震えていた。

ううん、体全身が震えていた。

絶対的存在の男…。



『自分でバーナー買ってこい』



それっきり、亜貴からの連絡は来なくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る