第68話

私の知らないところで、いろいろ、動いているらしい。


倭が私を家まで送り届けたあと、「外に出るなよ」と、言い残してからまた戻っていく。

倭がこれこら何をするのか分からない。

また自分の服を赤く染めるのかもしれない。



外に出るなと言われたものの、次の日の土曜日は、亜貴の命令で行かなければならなかった。



倭に秘密で、目的地へと向かう。

そこは駅近くのお弁当屋さんだった。

昼間の時間に、目的人物、橋本薫という男がいるらしい。



行きたくない…。

でも、亜貴の命令は聞かなければ…。

バレたら、私は西高に捕まり終わる。



清光の生徒だとバレてはいけないから、もちろん私服…。



店に入れば、日替わり弁当というPOPが1番に目に入ってきた。唐揚げ弁当が人気らしく、サンプルの横に『人気ナンバーワン』と書かれていた。



「いらっしゃい」



若く、低い男の声だった。

写真で見たよりも体が大きい。

身長もそうだけど、肩幅や、その厚さもあり。



奥の方を見れば、お弁当を用意している老夫婦らしい2人がいて。お客さんは私1人らしい。



軽く会釈し、頭が真っ白のまま、沢山種類のあるお弁当のサンプルを眺めていると、「人気ですよ、それ」と、ぼーっと唐揚げ弁当を見つめていた私に、少し口角をあげて話しかけてきたのは橋本薫で。



「…人気なんですか?」



少し笑いながら言うと、「毎日食べても飽きないっす」と、男らしい顔を、優しそうに緩めた。


この人が、西高の幹部らしい…。



「じゃあ、それひとつ…」


「ありがとうございます」



笑って、用意し始める男…。



「他にご注文は?」



きっとこの人は、私が亜貴の命令で来たとは思ってないんだろうな…。



「いえ…大丈夫です」


「お箸とお手ふき入れますね」


「はい…」



会計し、「ありがとうございます」と言われながら、私はお弁当が入った袋を受け取り。



「あの…」


「はい?」


「この仕事、何時に終わりますか?」


「え?」


「話があって…」


「…店の事ですか?何かありました?」


「いえ、あなたに…」


「俺に?」



一瞬、眉を寄せた彼は、「俺に話ですか?」と顔を傾けた。



「外で待ってます…」



私は逃げるように弁当屋を出た。

右手にある、弁当の入った袋を見つめた。



心を落ち着かせるように、スマホの待受画面を見る。倭は今、何してるんだろう…。

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