第60話
保健室には誰もいなかった。
保健室の先生もいない。
頭痛の事といい、亜貴に言われた事といい、精神的に参ってしまっていて。
きっと誰かがそこで寝ていたのだろう。
シーツが少し乱れているベットの上に横になった。
倭から『どこ?』とラインが届いていた。
『保健室 頭痛いから寝てる』と送る。
中学時代の倭の待ち受け画面を見た。もう3年も前の待ち受け画面。どうしてこうなったんだろう?そう思えば思うほど胸が苦しくなった。
『大丈夫か?今から行く15分ぐらいでつく』
倭は学校の中にいないらしい。
もしかしてそれを分かって、亜貴は私を『今すぐ』って呼び出したのかもしれない。
『痛み止めほしい』
倭に送り、瞳を閉じて、倭からの返事を待っている時だった。私しかいない保健室に、人が現れたのは。
ケラケラ笑いながら入ってくる男たち。きっとここへは遊びに来たのだろう。3人ほどの声が聞こえるけど誰も辛そうな、弱々しい声が聞こえないから。
…離れよう、離れなきゃ。
清光の連中は、いいやつがいない。
「あー、誰か寝てる」
「どしたのー?体調悪いの?」
「いいよいいよ寝てて」
本当に辛いのに…。スマホを持ち直し、ベットから足をつけ、無視してその場を去ろうとしたのに。
「どこ派?」と、当然のように聞いてくる彼らに、頭痛が酷くなる。
違う派閥同士は、襲われない…。犯されることは無いと思うけど。
「この子、一緒。この前亜貴さんに呼ばれてたよな?」
3人のうちの、1人の男がそう言った瞬間だった。「なんだぁ、一緒じゃん」と、私の肩が押されたのは。
ぐわん、と視界がゆれ、一瞬何が起こったのか分からず。「ラッキー」と嬉しそうに話す男は、私に馬乗りになっていた。
え?と、思った時にはもう遅く、手首を押さえつけられ首筋に顔を埋められた。
「やっ…!」
必死に抵抗するけど、頭痛が酷く、力があまり入らない私はその男を退かす事もできない。
私の手からスマホが離れる。
「鍵閉めてくるわ」とここを密室にするつもりらしい声が聞こえた。
「やめて…っ…」
「はは、かわいー」
「なんで…ッ…」
「なんで?一緒のチームだからいいじゃん」
一緒のチームだから?
「もしかしてお前、知らねーの?」
「やめ、…」
「違うチーム同士は掟破りだけど、同じチーム内だったら何しても掟破りにはならない」
──カチャン、と、鍵が閉まる音が聞こえた。
同じチームだと、掟破りにはならない。
嫌でも体が震え、青ざめていると、ベットの上に放置されたスマホが震えた。
『分かった 買っていくからそっちつくのに30分かかると思う』
その画面を見た私に馬乗りになっている男が、「やまと?あの倭?なあ、倭のやつ30分後につくんだってさ」と笑い。
「ふうん?じゃあそれまでには終わらそ。あいつ亜貴さんに気に入られてるからな」
カチャカチャとベルトの金属音が聞こえ、必死に暴れるけど適うはずなくて。
きっと、日常茶飯事なのだろう。
私が今日たまたま、初めてだっただけ。
彼らの動きは慣れていた。
「脱がすのパンツだけにしろよ」
時間にすると15分ほど。
口の中に苦味が広がる。
私の中を楽しんだそれは、シーツの上にポタポタと白濁を広げる。
「お前、ちょっと中に出てんじゃん」
「うわ、マジ?」
「いやだって、この子めっちゃ気持ちよくね?」
乱れはそれほどなかった。
パンツを脱がされただけ。
彼らもズボンとパンツを軽く下ろしただけ。
私が泣いていると、楽しそうに彼らは保健室から出ていった。
犯された。
また、犯された。
この高校にいる限り、私はあと何人の男に抱かれるのだろうか?
『大丈夫か?』
倭からラインが届く…。
倭には知られたくない。
震える手で、汚れた部分をティッシュで拭いた。
震える手でパンツをはいた。
震える手で、保健室に設置されている水道で顔を洗った。
震える足で、保健室から出た。
「奏乃!」
それから間もなく、倭が来た。
急いできてくれたらしい、倭の肩は上下に動いていた。
「大丈夫なのか?! 寝てなくて…」
「……」
「頭、どこが痛い?」
倭が私の顔を覗きこむ。
そして、私の顔色を見た倭が、目を細め顔を強ばらせた。
「お前…、熱あんじゃねぇのか、…」
「…やまと」
「病院行くぞ」
倭が私の頬にふれる。
泣くのを我慢した。
「…やまと…」
それでも我慢出来なかったらしくて、倭に見られないように、倭の胸元に顔を埋めた。
そのまま倒れるように倭に体を預ければ、「おいっ…」と倭が私を抱きしめた。
「……かえりたい、」
「その…」
「帰りたいよ……」
「…」
「…」
倭は私を背中におぶってくれた。
頭が痛くて泣き続ける私は、途中で気を失ってしまったらしい。
起きれば私は倭の部屋にいた。
私は倭のベットの上で眠っていた。
そんな倭は私を抱きしめていた。
「…お前、熱ある、もうちょい寝ろ」
さっき、3人の男に廻されたのに。
そんな私の体を大事そうに抱きしめる倭に、とても心が苦しくなった。
「……なんで、倭のへや…?」
「…お前の鞄学校置いたままだし、おばさんも帰ってきてない」
そう言われて納得し、私は倭の腕の中でもう一度眠った。次に起きた時も倭は私を抱きしめていた。
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