第52話

たぶん、トップ同士の会話。


胸元がはだけたまま、私の体を起こしてきた亜貴は、まだ酸素不足で頭が回らない私を見つめる。


将輝がいなくなったら視聴覚室は静かで。


力が出なく、未だに机の上に座っている私は、はだけた服を戻せずにいて。



「戦争時代とここは一緒だよ」



軽く笑った亜貴が、何故か私のはだけたボタンをつけていく。



「勝たなければ、支配される」



勝たなければって…。



「勝ったものがこれからの清光を作っていく」



勝ったものが…。



「どう思う?奏乃ちゃんは」



どう思うと言われても…。



「…シないんですか、」



さっきまで犯す気だった男は、完璧にボタンをしめ。さっきまで首を絞めていたネクタイまでもつけてくる。



「正直、こういうのは好きじゃないしな」



好きじゃない?

何を言っているのか。

だってこの人は綾を使って私を脅してきた…。



酸素が増え、思考が戻ってきて、亜貴と久しぶりに視線が重なった気がした。



「好きじゃないって…」


「本当は女を脅すのも、痛みつけんのも無理って意味」


「うそ…、慣れてた…」


「そりゃ、数え切れないぐらいやったからな」


「……」


「俺は清光がレイプとか当たり前、っていう考えを無くしたい」


「……」


「薬物もな、一切禁止」



薬物…。

言われて思い出すのは、私を犯してきた男たち……。



「誰かが1番になって、それを禁止にしないと清光は変わらない」



変わらない……。



「支配するにはそれまでの犠牲もいる」



犠牲…。


犠牲って…。



「…それが穂高たちですか」



小さく呟くと、「そうだな」と男は呟く。




「倭と穂高を仲悪くさせてまで?」


「ああ、それで掟が破られるなら」


「…私の首も締めていいと?」


「これからの清光のため、ってな」



これからの清光のため……。



「それがあなたの考えですか…」


「ああ」


「私は倭が不良にならなくて…、穂高と仲直りして欲しい…。あなたが何でも犠牲にするその考えだと、2人はもっと酷くなる…私の考えとは合わない」


「だろうね」


「でも、一切禁止っていう考えは、…あなたがいうことが本当なら、同感で…」


「……」


「私は倭たちが大事…」


「俺もだよ」



…俺も?



「綾が大事」



綾…。

たかしま、あや。

目が鋭く、怖い男…。



「奏乃ちゃんが俺の言うことを聞いてくれるなら、倭と弟を抗争のネタにはしない」



私が言うことを聞くなら?



「聞かねぇなら、また奏乃ちゃんを従わせるまで襲うことになる。俺も出来るだけしたくない。どうする?」

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