第50話

男の力は強い。

女の私では歯が立たないことを知ってる。

それは廻されたときにイヤと言うほど思い知らされた。


長い机の上に私を押し付けた亜貴は、泣いている私を見下ろす。


「泣いてもやめないよ」と、躊躇いなく、しゅるしゅるとネクタイを外す亜貴から顔を背けた。



…怖い。


どうして。

どうしてこの人は、

ううん、男の人はこんな事しかしないんだろう。


抱くことで、優位に立てると思っているのか。



廻された時のことを思い出せばイヤでも足が震えてきて、無意識に内ももをよせ、閉じる仕草をした私の足を無理矢理開く。



私の足を閉じないように間に入ってきた男は、何も言わない私を見下ろしたまま。



この男は分かってる。

私が抵抗しないことを…。

分かってるからこそ、こうしてゆっくり私のボタンを外していく。



私の頭は抵抗しちゃダメと、分かってる、けど。きっとそれは無意識だった。

亜貴の指先が、ス…、と、お腹辺りにふれたとき、「…やめてっ…」と声を出してしまったのは。



見下みおろす、というよりも、見下みくだすという視線に変えた亜貴。



「…なんだって?」



冷たい声。

表情は笑っているのに、目と声は全く笑っていない。私の頬を鷲掴み、無理矢理目を合わせてくる。



「……っ…」


「聞こえなかった、もう1回言って?」



聞こえてたくせに…。


分かってるくせに…。


私がセックスを怖がっていることも。


セックスが怖い理由も、分かっているのに。


文句を言いたくても、怖くて言えず。


ポロポロと涙を流し続ければ、亜貴は冷たく、鼻で笑った。



「倭に言おうか」


「っ、」


「弟に縛られてた、って。倭すごい怒るだろうなぁ。まあ今から俺が縛るんだけど」



ちらちらと、ネクタイを見せつけてくる。



「……っ、…やめて…」


「ん?」


「…し、します、も、」


「分からない、大きい声で言って」


「…っ…」


「ほら」



手を縛られるかと思った…。

だけど、そうではなくて、首にネクタイをまきつけてきて。


絞まる…。


息が、つまる、



「……て…」


「ん?」


「たすけて……」


「助けてって、俺のところに来たのは奏乃ちゃんなのに?」





息が出来なくなった。

首をネクタイで絞める亜貴は、悪魔のように笑っていた。

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