第48話

翌日、私は穂高の兄、亜貴に会いに行った。

もしかしたらこの人は私が来ることを分かっていたのかもしれない。

違う学年のその人は、私の顔を見るなり、うっすらと口角をあげた。



「来ると思った」



まるで、手のひらの上。

亜貴の周りには誰もいなく、鋭い目をした綾もいなかった。

亜貴は誰もいない、視聴覚室と書かれている物置になっているような場所に私を連れ込んだ。

どこからどう見てもダンボールが沢山積まれており、視聴が出来ない教室の中…。


きっと、たまり場のひとつなのだろう。


壁にもたれた亜貴は、穂高とは似てない…。顔も、性格も。



「…話があるんです」


「うん」



微笑む亜貴と、2人きり…。



「…どうして倭に嘘を?」


「どうしてって、分かってんじゃないの?」




分かってる。

分かってるよ。

あなたは、抗争を起こしたいんでしょう?



「分かってます、でも、倭にあんな嘘を言えば、怒った倭が穂高を殴るかもしれません。そうなれば、手を出した倭側…あなた達が悪い立場になるのでは、あなたがやったことは、矛盾してませんか…」


「してないよ、全く」


「……」


「弟が、きっと俺を殴りに来るだろうから。そうなれば弟側が悪い立場になるってわけ」



穂高が…。



「抗争をしたいなら、弟も、使うんですか…」


「そうだね、ってか、弟のことはあんまり好きじゃないし」



仲が悪い2人。

好きじゃない?

好きじゃないなら、何してもいいと?



「好きじゃなければ、穂高のことを悪者にしてもいいんですかっ」



怒鳴る私に、目の前の男は、笑う。



「穂高は、いいやつです…。倭に嘘をつくようなまね、やめてくださいっ!」


「…」


「お願いです……」



泣き出しそうだった。

面白そうに、私の方へと歩いてくる亜貴は、「なんか、新鮮だわ」と、ゆっくりと私の方へと手を伸ばしてきて。



殴られる、


そう思った私の肩が、ビクッと動いた。



「〝穂高〟って、俺のこと呼ばれてるみたい。ねぇ、穂高先輩って言ってみてよ」



けど、殴られることはなく。

私の頬を挟むように片手で上げてきた男と、目が合う。



穂高先輩?


…バカに、すんな。


絶対に言わない。



そう思って、涙目で亜貴を睨みつけた。



「──…なあ、奏乃ちゃん、だっけ?」



声のトーンは分からない。

それなのに雰囲気が変わる。

文句を言いたいのに、声が出ない。

怖い…。



「俺には逆らわない方がいいよ」



逆らわない方がいい…。

分かってる。

それでも。



…私は倭が何よりも大事だから…。



「2人に何もしないで……」



反抗する私に、笑ったその人は、「まだルール、覚えてねーの?」と、頬を掴む手を下へとおろしていき、それは私の首元でとまる。

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