第44話

晃貴によろしくね…。

その言葉の意味は…?

仲悪い兄弟…。



────嫌がらせだ…。

私と穂高が、関係あるのを知ってて。


そうか…。

分かった。


わざと、わざと穂高を怒らせる真似をしてるんだ。

私が穂高に言えば、穂高はきっと怒る。

怒った穂高が、目の前にいる男をもしかしたら殴りに来るかもしれない。

兄弟でも、それは〝掟破り〟になってしまうから。この男が優勢になってしまう。



「ほだか、には、言いません…」



ゆっくりと立ち上がった私は、震える足をおさえながら、亜貴を見た。



「うん?」



首を傾げ、亜貴は笑っていない目を向ける。



「いまのは、私が、亜貴さんに嘘をついたから…怒られたんですよね」


「そうだね」


「…だったら、穂高は、関係ない…。違いますか…?」


「…」


「穂高に、何も言うことはありません…」



綾という男の鋭い目が向けられる。

怖い…。

バカなのか、私は。

はいって、頷いていればいいものを。

だけど穂高には言う訳にはいかない。

もうここは、中学じゃない。

清光では自分の身は自分で守らないといけない。そうでしょ、穂高。



「まあ、そうだね、言われてみればそうかも。奏乃ちゃんは頭がいいんだね。この学校では珍しいぐらい、かしこそうな顔をしてるし。本当はちょっとタイプ」



長い足で近づいてくる亜貴は、私の肩に腕を回した。



「でも、そのかしこさが、仇にならないようにね?」


「…」


「行っていいよ」



肩から腕を離され、私はすぐにその場を離れた。しばらく走って、まだ震えている肩をおさえた。まだ足も震えてる…。



戦争を起こしたいためなら、味方でも使う男…。まるで生贄。

あれが、穂高の兄…。





「…性格悪すぎ……」

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