第42話

「やるなぁ、亜貴さん」


「高島さんにヤれって言えんのも亜貴さんだけだよ」


「可哀想にな」






その人は、まるで下半身にしか用事がないように、下着に指を引っ掛けた。

冷たく見下ろす目は、きっと私を人間だと思っていない。暴れようとする私を無理矢理爪を立てて押さえ込んでくる綾という人は、「だる…」と、呟いた後、片手をあげた。



いつの間にか泣き出している私は、その片手に気づかなかった。──鋭い痛みとともに、目がチカチカと揺れた。

ぐわんぐわんと脳が起動しなくなり、こめかみに激痛がしたと思った瞬間には、教室内でスカートを捲られていた。


太ももを強引に広げた男は、「──動くな」と私の方を見ずに言う…。

殴られ、呼吸が苦しくなり、奴隷のような扱われ方…。



「…つーか、血が出ればいいんだよな」


「ご、ごめんなさい……やめて…」


「…別にやらなくてよくね…」


「やめて……」



殴られた恐怖で動けず、口だけで何度も何度も謝っていると、少し体を起こした男は、教室内にいる男子生徒の方を見た。



「なー、誰かハサミもってきてー。中切るからカッターでもいいや」



ハサミ

カッター…

中を切る…


嫌な想像が脳裏に浮かび、「や、いや…」とその男から逃げようとすれば、鋭い目で見下ろされ体が動かなくなる。



「…しょ、しょじょ、じゃないです…」


「なにが」


「う、うそついて…ごめんなさ…」


「あー…ライターあるわ、これでいいか」



ポケットからライターを取り出した綾という男は、シュッと、簡単に火をともした。

もう片方の手で私の足を引きずり、その部分に火をつけようとする。



躊躇いもない、表情…



「やだ、やだっ、いやあ…っ」


「綾もういい」



その声に、ぴたりと動きを止めた綾は、機嫌悪そうに声の主を見上げた。



「あ?」



さっき、煙草を吸ってくると言った男が、私を見下ろしていた。



そしてそのまま膝を立ててしゃがみこみ、「もう嘘つかない?」と微笑む。

泣きながらコクコクと必死に顔を縦に動かせば、また、穏やかに笑った。




「俺のこと、怖い?」



それに対しても、素直に頷けば、「うん、嘘つかない子は好きだよ」と震える私の頬をなぞった…。



「好きだから、今から俺の彼女にしてあげる。──…嬉しい?」



あーあ、痛そうと、綾に殴られた頬にふれる男…。

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