第41話
その一声で、ゆっくりと眠っていた人が机から体を起こす。黒い髪をし、だるそうにこっちを見てきた人の目は、鋭く。
背筋が凍った。
手のひらに汗が滲みだし、そこから逃げようと立とうとすれば、私の肩に腕を回している男が逃がすまいと力を入れる。
綾という、男なのに、女性のような名前を持つ男は「…なんだよ」と、私達の方を睨みつけていた。いや、元々、こういう目付きなのか。
「この子、処女か確認してよ」
「は?」
「処女って血が出るんだって。だから未経験なら血が出るはずだろ?」
「…今更何言ってんだ?つか、それって人によるんじゃねーの?」
だるそうに立ち上がったその人は、細身だった。背が高く、逃げ出せない私を見下ろす…。
「大丈夫だよ、血が出るまで、何してもいいから」
血が出るまで、何してもいいから──…
「経験ないって言ったの、奏乃ちゃんだもんね?早めに血が出るといいね」
恐ろしい言葉が聞こえた時、肩から腕が離れ、逃げ出そうとする私を捕らえたのは、黒髪の人。
「…つかなんで俺、亜貴がしろよ」
「やめっ…」
「んー、この子よく嘘つくから。もし弟とやってたら穴兄弟は勘弁だろ?」
「…なんだそれ」
綾と呼ばれた男は無造作に私の髪を掴むと、ソファから下ろし床へと捨てた。
下ろしたよりも、本当に投げ捨てたという言い方が正しく、「痛っ…」と膝を着いた私は泣きそうになった。
逃げないとと思う前に、黒髪の男が馬乗りになる。
「俺煙草吸ってくるから、その間にいい子になってたら嬉しいな。俺嘘つきは嫌いだから」
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