違仲

第14話

「ねぇ」



捕まえた。

ようやくその後ろ姿を見つけた。

彼のクラスの前で。


明るい髪をした倭の後ろ姿は、目立つ。

逃げないように、彼の腕を掴む。


「ねぇ」と呼びかけた声に誰か分かったみたいで、凄く不機嫌そうに私に振り向いた。

ここは、学校の廊下だった。ちょうど移動教室の時に、運よく倭を捕まえた。

ほんの少しだけど、倭と目線の高さが違った。

会わない間に、倭の身長は伸びたみたいで…。



「話があるんだけど……」


「何の」



何のって。


倭、私のこと好きなの?

穂高と喧嘩しないで。


そんな内容。


そんな事を考えていると、頭上から授業が始まるチャイムが鳴り響き。



「っ、…次の休み時間!ここで待ってるから!絶対来て!」


「なんで」


「話がある、絶対来てね」


「……」


「来ないと、倭の家、ずっとピンポンダッシュしてやるから。ずっと電話ワン切りするからねね!」



私はそう言って、倭の腕を離した。

何か言いたげな倭に「絶対来てよ!」と大きな声を出した私は、小走りで教室の方に向かった。



授業が終わり、走ってさっきの場所に行っても倭はいなかった。私を避けている倭…。倭がいるかもしれない教室を覗いてもいない…。


ああ、やっぱり授業遅れてでも、倭と話せば良かった…と顔を下に向けた時だった。




「──原田」と、彼女の声が聞こえたのは。

その声に、背筋に汗が流れたような気がした。

心臓がドク、っと動き、体が動けなくなるような感覚。



その瞬間、私の体は尻もちをついていた。

手に持っていた教科書やノート筆箱が、廊下に音を立てて落ちる。

ああ、体を押されたと思った時には、おしりと、廊下に変な付き方をしたのかグキっと、足首に鋭い痛みが走った。



「全部あんたのせい!謝んなさいよ!」



そう私に向かって怒鳴ってくるのは、エリ先輩だった。穂高の策略によって、現在、虐められているエリ先輩…。


廊下に座り込んでいる私の肩を掴むと、そのまま髪を掴もうとし。「やっ…」と手で塞げば、その行為が気に食わなかったのか、また体を押してきた。



「やめてっ、」


「絶対許さないから!」


「痛いっ、」



今度こそ、髪を掴まれ、頭皮に痛みが走る。



「生意気なんだよっ」



エリ先輩にそう言われ。

廊下にいる生徒たちもなんだなんだって、騒ぎ出す。やばくね?って雰囲気を出す。

「先生呼んできた方が…」って声も聞こえる。




ブチブチと、髪が抜ける音が聞こえ。涙目になったその時だった。



「おい」と、彼の声が聞こえたのは。

彼の声により、エリ先輩掴む手が緩まり、頭皮の痛みが弱くなる。

どうして彼がここにいるのか。

ああ、そうか、ここは彼と、倭の教室の前で。



「…何してんの」



それは呆れた声だった。彼女の指が、私の髪から離れていく。だるそうに教室から出てきて、私の近くにきた彼が、「めんどくさい事すんなよ」と、しゃがみこんでる私の腕を掴んた。


そのまま力を入れられ、私を立ち上がらせてきたのは、どう見ても穂高で…。

立ち上がったことに、ズキ、と痛みが走り。顔を歪めた私の前にたった穂高は、エリ先輩に顔を向ける。



「だって…」


「だって?」


「その子が悪いから…」


「普通に考えて悪いの俺だろ?」


「その子が始まりじゃん…」


「勘違いしたお前が始まり」


「晃貴くん、私の事好きじゃなかったの?!」


「全く」


「抱きしめてくれたのに!?」


「そうだな」


「キスもしたのに?!」


「気持ち悪かったな」


「っ、…じゃあ何で私と付き合ったの?!」



エリ先輩が、廊下で叫ぶ。



「すぐにヤラせてくれそーだったから。だからこいつは全く関係ないし、こいつに文句言うのは間違い」



表情ひとつ変えない穂高…。



「嘘っ、原田が好きだからでしょ!?」


「俺こいつが好きだって1回でも言ったか?」


「だったらなんで庇うの!!」



エリ先輩がそういった瞬間だった、…はあ、と思いっきり穂高がため息をついたのは。



「うっせぇな」


「こうきくん…」


「うっせー女はムリ」


「…だって、」


「俺の知り合いに文句言ってる時点でお前はムリ。分かったら帰れブス」

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