第12話

倭に帰れよとは、言われたことは何度かある。

もう夜遅いから、とか。

そういうの今みたいなのじゃない。


なんなの?と、眉を寄せる私は、「さっきから何言ってるの…」と、倭を見た。




「はあ?」



はあって…。

倭の言い方に少しずつムカつきが増してくる。勝手に勘違いしてるのは、倭なのに。



「はあ?って言いたいのは私の方だよっ」



私の声のトーンが上がり、倭の眉の幅が狭くなる。



「不良になって、強くなった気でいるの?はあ?とか言葉遣い悪すぎ!」



何も言い返してこない倭に、また言い返し。



「私好きって言った?言ってないよね?!」


「奏乃」


「なんでそんなに怒るの!?」


「……お前が言わないからだろっ」



言わないから…。

だからそれは…。

そう思って、言い返したい言葉を喉の奥に止めた。



「…、もういい、今の倭と口聞きたくない…」


「その、」


「勝手に勘違いしてればいいじゃん!バカ倭!」



私は立ち上がり、倭の部屋から立ち去ろうとすれば、帰れって言ってきた倭が「おいっ」と声を出して引き止める。


それでも部屋から出た私に、倭が追いかけてくることは無かった。



倭と小さな喧嘩をしたことは今まであった。今までと言うより、小さい時から一緒だったから、そういう玩具の取り合いとかの喧嘩で。


こういう、大人になってからの喧嘩は初めてだった。




家に入る前、後ろを向いたけど倭はいなく。自分自身が苛立っていたこともあり、私は倭の所には戻らなかった。




もし、戻っていれば…。


過去の私に言いたい。


今すぐ倭と話をしろと。

誤解がないように全てを話せと。



だけどもう、遅い…。





翌日、学校へ行けば、倭と穂高が何かを話してあるのを見つけた。倭の表情は険悪だった。



「──…来たじゃん、付き合えば?」



私を見ながら嫌な笑みをしてくる倭は、そう言ったあと校舎の中へと入っていく。


その後ろ姿を見て、穂高はため息をついていた。



「…勘違いしてんのな」と。






「うん、昨日から怒ってる」



昨日よりもムカつきがなくなり、穂高に近づきそう言えば、穂高はまた軽いため息をつく。



「怒ってる理由、お前知ってんの?」



怒ってる理由?



「…なんで俺に言わなかった?って言われた。なんで穂高に言うんだって」


「ふうん…」


「なんであんなに怒るか分からない…倭は関係ないのに…」



私の言葉に、目を軽く開いた穂高は、「は?」と、口を開く。

驚いているようなそんな顔。

特に変わったことを言ったつもりは無かったから、穂高の驚く顔に「え?」と顔を傾ける。




「いや、さすがに今回ので分かっただろ?」


「今回の?」



今回のとは?

分かったって何が?



そう思っていると、穂高は「普通に、嫉妬だろ」と、倭が消えた方へと爽やかな顔を向けた。



嫉妬?

誰が、誰に?




「もう、人の恋愛とかめんどくせーから言うけど、あいつお前のこと好きなんだよ」



めんどくせぇ?

あいつお前のこと好き?


え?


あいつって倭?

お前のこと?私?

一瞬、穂高の言っていることが理解できず。



「え?」と、声を漏らした。



「お前を守りたかったんだろ」



私を?好きだから?

倭が私を好きだから?

好きだから守りたかったの?


倭は穂高に嫉妬してたの?




「倭…私のこと好きなの?」


「見れば分かるだろ」



見れば…。

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