第10話
倭の部屋は変わらない。ベットのシーツの柄も季節によって違うだけ。テレビの前にはゲーム。2つのコントローラー。
煙草を吸い始めたからか匂いは少し変わってた。ほんのりと香水の匂いもする。だけどそれが嫌だってワケじゃなくて。
「なんで急にそんな話?」
「別に…なんとなく、」
「……」
「倭?」
黙り込んだ倭に不思議に思い、ベットに座ってる倭を上目遣いで見つめれば。煙草を吸うおうとしてる倭が床におりてきて、机の上に置いてる煙草を手に取った。
そこから1本、手に取る。
「…普通にいいやつ、」
小さく静かにポロッと呟いた倭。
いいやつ
穂高が。
私を助けてくれた男…。
嬉しいという感情はあるけど、やりすぎでは…と、思ってしまうような復讐を私のためにしてくれた人。けど、若葉の言う通りざまあみろって思ってないわけでもない…。
きっと仕返しをしてくたのは、私が倭のツレだから。
ツレなだけに、恋人というフリをする、自分の気持ちとは正反対のことをしてきた…。
「そうだよね、倭がすぐに友達になった人だもんね」
そう言って私が笑うと、煙草から私の方へと倭の目線が行く。その表情は笑ってない。
「……なあ、」
穂高のことを考えている時、少し低く声を落として話しかけられ、私も倭の方に顔を向けた。
まだ倭は、煙草に火をつけていない。
「なに?」
「ずっと思ってたけど、お前、晃貴のことすげぇ気にするよな?」
「え?」
「なんでそんな気にすんの?」
…気にするのって言われても。
「──…お前、好きなわけ?」
好きなわけ?
誰を?
穂高を?
好き?
穂高をだよね?
一瞬、何を言われているか分からなくて、少しだけ顔が赤くなった。
そんなわけない。
穂高をそんなふうに見たことない。
だけど顔が赤くなったのは、きっと〝異性である倭と、恋の話をするのが初めてだった〟からだと思う。
「な、何言ってんの、そんなわけないでしょ」
思わず顔を逸らせば、眉をよせた倭が「…やめとけよ」と顔を逸らした。
「最近、あいつ、2年の人と付き合ってたのに、今では…その人のこと無視だし」
「…無視って、」
「ガチの無視、体揺すられても話しかけても無視。あんな無表情って怖いのかって思いぐらい。付き合って仲良かったのに普通そんなことするかって、俺らも話してるし」
「…」
「自分の女だったのに…」
倭は、何も知らないから…。
あれは私のためだったことを。
「晃貴、いいやつだけどそういう1面があるから、やめた方がいい」
そう言って煙草に火をつけようとした倭に、「…それはエリ先輩のこと、元から好きじゃなかったからだよ」と言い返す。
ぴたりと火をつけるのをやめた倭は、「…どういう意味?好きじゃないのに2年のやつと?」と険しい顔をする。
「……あれ、私のせいなの」
「は?」
「私…、エリ先輩に虐められて…虐めてきてたのはエリ先輩だけじゃなくてまだ何人かいて、エリ先輩が主犯って感じなんだけど…」
「……は?」
「それに気づいた穂高が、エリ先輩をテニス部から退部させるために…してくれたことなの…」
「…──」
「だから、」
「なんだよそれ、じゃあ奏乃のために、あいつあの2年と付き合ったわけ?」
「…うん、」
「2年が部活やめてから、別れたってこと?」
「そう、今…エリ先輩。虐められてるみたい。それも穂高が…そう仕組んで…私のために」
また黙り込んだ倭は、凄く険しい顔をしていた。今度こそ火をつけた倭から煙の匂いがする…。
もう吸うことに慣れたらしい。
小学校の頃よりも、身長が伸びた倭。
「…──なんで、俺に言ってこなかった?」
「え?」
「虐められてたこと。なんで俺に言わなかったんだよ。俺、お前になんかあったかって聞いてただろ」
言われてたけど…。
「なんで晃貴が…お前を助けるんだよ」
なんでって…。
穂高が気づいて、行動していたから。
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