第4話

それは私が部活の準備運動で走って転んでしまい、膝に怪我をし靴下を抜ぎ水道で土のついた部分を洗っている時だった。



「──なあ」



ふと声をかけられ、隣を向く。

中学に入って早3ヶ月。

多分話しかけられるのは初めてだった。

中学になってから目の前にいる人は倭と仲良くなったものの、私と関わるのは無く。

私の視界に入る時も、必ずそこには倭がいたような気がして。


こうして1体1で、話しかけられるのは…。



「倭、見なかった?」



確か、名前は…晃貴。

爽やかな容姿をしてるのに、倭たちと授業をサボっている不良らしい。


私に話しかけたのは、どうやら倭が理由みたいで。



「見てないよ」



蛇口を止めながらそう言うと、「そ、」と、私の足元を見た彼は「痛そうだな」と、軽く笑う。



「でしょ?けっこう痛い」



ふふ、と笑い。

私は用意していたタオルで、軽く拭いた。



「倭、探してるの?」


「あー…、あいつスマホ忘れて。もう帰ったっぽいな。原田んとこって家近かったよな?渡してくれよ」



そう言って差し出されたのは、見た事のある倭のスマホだった。

どうやら忘れたスマホを渡しに、倭を探していたみたいで。



「あ、うん、いいよ。ってか私の名前知ってたんだ?」



笑いながら受け取ると、彼は「まあ…」と曖昧な返事をし。



「ごめん、私名字知らなくて。名前なんて言うの?」


穂高ほだか


「おっけ、穂高ね。穂高に頼まれたって言っとく」


「悪いな、頼むわ」



穂高は爽やかに笑うと、軽く手を振りながら「足お大事に」と、家に帰るのか校門の方に歩いていく。







膝の血も止まり、スマホを一旦鞄の中に入れに行き、部活に戻った私は、その日の帰りに倭の家に行った。



倭は家にいて、スマホを探していたみたいで。穂高から頼まれたことを伝えると、恥ずかしそうに眉を寄せた。



「…お前、待ち受け見た?」と。



正直、見てない私は「見てないよ?」と首をふる。だってスマホカバーだけで、このスマホは倭のって分かっていたから。



「そ、ならいいや、ありがと。つか何その足」


「転んだ」


「あー、足短いからだな、ドンマイ」


「はっ、まじうざいっ」




ケラケラと笑う倭は、「家あがる?」と言ったけど、部活で汗をかいていたから断った。本当は久しぶりに、倭とテレビゲームでもしたかったけど。



「穂高にお礼言っておきなね」



私はそう言って手を振った。お礼を言う倭も、普通だった。

普通の、私の幼なじみの、倭だった。




それなのに──……。

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