第70話

私の顔は、真っ赤だと思う。

でも、私の視界に映る蛍の方が、頬を赤く染めていて。


頭を撫でていた手のひらが、ゆっくりと頬へと移動し。私を見つめる蛍の瞳が、私の唇にあるのが分かった。



「―――俺から?」


「うん」


「いいのか?」


「しないの?」


「してぇ⋯」


少しだけ低い声で呟いた蛍。


私は、ふふ⋯と微笑むと、瞼を閉じた。



蛍の手のひらが、優しく頬を撫で。

背中に回る腕の力も強くなり。



一瞬、ふれただけたった。


感じたことも無い柔らかい感覚。



瞼を閉じて、蛍の事は見えないけど。


少しだけ、唇の角度が変わるのが分かった。



そしてそのまま、私を強く抱き寄せ。



「⋯もっと、していい?」



唇を離し、吐息が当たる距離で呟く蛍に、私は目を開いて頷く。



「口、⋯あけて」



頬を包んでいた蛍の親指が私の下唇にふれ。蛍の言われた通りに口を開ければ、蛍は少しだけ強引に、唇を塞いできた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る