第69話
キスは、した事が無かった。
あの時も、‘モノ’を口に入れられ続け、キスはしなかった。イガイガと、気持ち悪い感覚。
「⋯イヤなら、いい。抱きしめるだけでも進歩だしな」
イヤじゃない。
私だって、蛍とキスしたい。
大好きな人と、キスをしたい。
でも、きっと蛍は、私からキスしないとキスして来ない。
手を繋ぐのも、抱きしめるのも。私から蛍にふれにいったから。
「やだ⋯」
「うん、分かった」
蛍は髪を撫でている手で、私を引き寄せ、再び抱きしめてきて。
「ほ、蛍⋯そういう意味じゃない⋯」
「え?」
「あ、私からするのは、恥ずかしいから、蛍からして⋯」
私は再び、顔を上に上げた。
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