第56話

「⋯零さないし⋯」


ポツリと呟けば、蛍は笑う。



「あん時さ?」


「え?」


「すげぇ俺にビビってなかった?」



そう言われて、思い出す。

怖かった。

蛍が、男の人だったから。


怖くて怖くて、体が震えて、その日の夜は布団から出ることが出来なくて。



「俺、怖そうに見えた?」



蛍が怖いというより、男の人が怖いから。



「⋯あの」


「何?」


「蛍が、とかじゃなくて⋯」


「うん」


「私⋯、男の人が⋯苦手で⋯」


「え?」



私は、視線を下に向け、両手でグラスを掴んだ。

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