第53話

もうひとつのヘルメットをかぶった蛍は、バイクに跨り、「乗れよ」と言ってくる。


言ってくるけど。


これは⋯、正直に、言った方がいいのか。



ただヘルメットを持っているままの私は、どうすればいいか分からず。

またバイクを降りてきた蛍は、「どうした?」と、私に近づいてきて。




「あ、あの⋯」


「なに? まさかソレの被り方分からねぇとか?」



ヘルメットの被り方?

そ、れは⋯分かる。


分かるけど。



私は恐る恐る、蛍を見上げた。



「⋯あの⋯」


「ん?」


「歩いて、行かない⋯かなって」


「え?」


「ご、めんなさい⋯、せっかく、迎えに来てくれたのに⋯」



本当に失礼な事だと思った。

迎えに来てくれたのに。



やっぱり、どうしてもダメだった。



バイクの後ろに乗るって、それって、蛍の体に触れるって事だと思ったら。どうしても⋯乗ることが出来なかった。

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