第37話

蛍は私がいることに気づいたらしく、少しだけ笑いながら、軍手をはめた手でフラフラとこっちに向かってふってきて。



多分、私にふっているのだと思ったけど。



もしかしたら私以外の人にふってるのかも、と思った私は、自分の周りを見渡した。けれども、誰もいなく。



私にふってたんだって思ったから、もう一度、蛍の方を見た。



蛍は少しだけ笑いながら、「おまえだ」というふうに、私に向かって指をさしていて。


さしたと思えば、また軽く手をふられ。




私は少し戸惑いながらも、蛍に向かって手を振り返した。



それを確認した彼は、顔をそらし、また作業を始めた。



高校に行かず、働いているらしい蛍。



そんな蛍に手を振ることができる私は、本当に男という存在がマシになっているのかと思っていた。

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