第27話
汐璃の服を購入した後は、千里の服を見にメンズフロアを回ったり、書店に立ち寄った。
「楽しかったです……!」
二人は帰りの電車の中で並んで吊革に捕まりながら談笑している。
千里と一緒にいると時間が経つのが早く感じてしまう。
“間もなく――”
もうすぐ汐璃が降りる駅の到着のアナウンスが車内に流れ、寂しさを覚える。
(いつもより一緒にいられたのに、寂しいです……もう少しいたいです)
ストーカーをしていた頃は見つめているだけ、一方的に千里のことを知るだけで満足出来たが、千里と恋人同士になってから欲張りになってしまった。
(千里さんに振られたら、立ち直れないですよ)
千里は引く手数多だ。彼の彼女になりたい女性は未だに大学内にいる上に、アルバイト先でも千里目当ての女性客が沢山いる。
ちなみに後者はSNSで調べて知ったことだ。アルバイト先の店名で検索をかければ、千里が格好いいと誉めそやす内容が何件も出てきた。
「私降りますね。今日はありがとうございました」
汐璃は、さようならと手を小さく振って、電車から降りようとしたが、その手は千里に掴まれていた。
(千里さん?)
戸惑う汐璃をよそに千里は手を繋がれたまま、一緒に降車する。電車は程なくして発車してしまった。
「千里さん、どうして降りたのですか?」
小首を傾げていると、千里は汐璃の髪をいきなりわしゃわしゃと掻き回し始めた。
セミロングの黒髪が乱れていく。
「そんなの、汐璃を送る為に決まってるでしょ」
「それは悪いですよ。遠回りになるじゃないですか」
「汐璃を一人で帰す方が嫌なんだけど」
乱れた髪を直しながら囁く千里の声に、汐璃の鼓動が高鳴っていく。
(ああもう、反則ですよ)
無言で見つめていると、千里は表情を綻ばせた。
「お手をどうぞ、お嬢さま」
まるで従者のように恭しく手を差し伸べる仕草は、汐璃の頬を容易に染めさせた。
(なんて甘い……これ以上夢中にさせないでください)
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