第26話

二人は繁華街のファッションビルに赴いていた。

 レディースファッションのフロアをゆっくりと見て回っている。


「千里さん、こういうものはどうですか?」


 汐璃は目に入った背中の開いたニットを手に取り千里に見せるが、千里は違うとかぶりを振った。


「この店覗いていい?」

「はい」


 千里の後に続いて、今いる店の向かい側のテナントへ向かった。

 千里が選んだのは、宣言通り系統が違うきれいめのカジュアルのブランドだった。


「こういうものがいいんですか?」


 汐璃としては、千里好みの女子の服装は、オフショルダーやタイトスカートなどセクシーなものだと思っていた。

 そう思っていたのは、千里を取り巻く女子の服装の傾向がそういった格好が多く見られたからだ。


「汐璃はこういう服も似合うと思うよ」

「そうでしょうか」

「今みたいな女の子らしい服も似合うけど、それは俺と二人きりの時に着て欲しい……汐璃の可愛さを知ってるのは俺だけでいいから」


 汐璃は千里の不意打ちの甘い発言に全身が熱くなるのを感じた。


「可愛くないですよ……」

「ふ、顔が赤いよ。本当可愛い」


 何度言われても千里の言う“可愛い”は慣れそうにない。独占欲を露わにされると心臓が壊れそうなほど高鳴ってしまう。


 千里が選んだのは、シンプルなカットソーに膝下のスカート、細身のジーンズだった。汐璃はそれを試着してサイズを確かめた後に購入した。


「選んで下さってありがとうございます」

「大学に行く時は膝下のスカートかパンツスタイルにして。露出多いのはだめだから」

「分かりました……っ」


 明らかな束縛発言だが、汐璃は素直に千里の言葉に頷いていた。惚れた弱みというものだ。

 何より千里が自分の為に選んだという事実が汐璃を喜ばせた。


 汐璃はすっかり千里の毒牙にかかっていた。

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