第24話

「汐璃、お弁当は持ってきたりしてる?」

「いえ、今日は買うつもりでした」


 汐璃は講義が一限からではない限りは、お弁当を作っていた。全て手作りは時間的な余裕がなく冷凍食品に頼ることもある。

 今日は寝坊してしまい、作ることが出来なかった。


「じゃあ、一緒に外で食べよっか」

「はいっ」


(千里さんと外でご飯は初めてです。サークルの飲み会は会話をすることはなかったですし)


 汐璃は千里と手を繋いで歩いていると、なんだがデートをしているような気になってくすぐったくなった。



 大学の周辺は学生街とだけあって、リーズナブルな飲食店が並んでいる。

 周辺をぶらつき、二人は目に入ったカフェで昼食を摂ることに決めた。


 店内はナチュラル系の落ち着いた内装をしていた。


「いらっしゃいませ。空いているお席にご案内いたします」


 女性の店員に案内されて、店内の奥にある空席に向かう。

 二人は店員から受け取ったメニュー表を広げて、注文するものを選んでいた。


「何にしましょうか」

「俺はこれかな」


 千里が指さしたのは、きのこの和風パスタの文字だった。秋限定メニューで写真からしめじや舞茸、エリンギが入っていることが分かる。


「急いで決めますね」

「急がなくていいよ。時間はあるからゆっくり決めな」

「ありがとうございます……っ」


 汐璃は三分ほど悩んで、デミグラスソースのオムライスに決めた。




「いただきます」

「いただきますっ」


 注文したものが揃い、二人は手を合わせて食べ始めた。


「オムライス美味しいですっ」

「パスタもうまいよ。食べてみる?」

「いいんですか?」

「どうぞ」


 千里はフォークでパスタを巻き、汐璃の口元へ運んでいく。


 「口開けて?」


 言われるがままに開ければ、まるで鳥に給餌をするように食べさせられた。


(美味しい……でも、かんせつキスしてしまいました……っ)


 頬が熱くなっているのが分かってしまい、千里の顔を見ることが出来ず俯いてしまった。

 その時、頭上から千里の小さな笑い声が耳に入った。


「汐璃ちゃん、間接キスに照れんの? これよりすごいこといっぱいしたのに」

「千里さん……っ」


 そっと耳打ちされた言葉に、汐璃は頬を染めて挙動不審になってしまった。


(思い出させないでくださいっ)


 おまけに付き合ってからは呼び捨てなのに、急にちゃん付けで呼ばれて胸がきゅうっと締め付けられていく。

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