デートしているみたいです!

第23話

新川にいかわさん、汐璃を借りていい?」


 午前の講義を終えて、昼休みに入ったタイミングで千里が汐璃の元へやって来た。そして、汐璃の隣にいた友人の新川由依に尋ねていた。

 由依は千里と汐璃の間を何度も視線を向けて、驚きを隠せないようだ。


(まだ、由依に千里さんと付き合っていることを打ち明けていませんでした……!)


「え……あ……二人は……」


 千里は由依の疑問を遮るように、汐璃の指を絡ませては手を握り締めた。伝わってくる体温に汐璃の鼓動は大きく音を立てた。


「俺達付き合っているんだ」


 由依を始めとした周囲にいた学生は、千里の発言にぎょっと目を剥いていた。由依は「どういうこと!?」と無言で汐璃に訴えかけている。


「あの、人前で言うのは……っ」


 慌てだした汐璃に、千里はよく見せる優しい笑みを浮かべて汐璃の髪を撫でながら。


「なんで付き合っていること隠すの? 汐璃に集る虫を避けたいのに」


(まるで私が不衛生みたいな言い方です)


 念の為、汐璃は自分の周りに虫が飛んでいないか確認し、千里に抗議の声を上げた。


「私、毎日お風呂入ってます」

「汐璃の解釈間違ってるから」


 拗ねるようにぷくっと頬をふくらませる汐璃に、千里は呆れ気味に笑いながら頭をぽんと撫でた。


「斑鳩先輩……公衆の面前でイチャイチャを見せつけないでください」

「由依?」


 イチャイチャしていた憶えのない汐璃は、小首を傾げていた。そんな汐璃は由依は呆れ笑いを零していた。


「どうぞ汐璃を持ってってください」


(まるで物みたいな言い方です)


「ありがとう。汐璃、ほら立って」

「わあっ」


 千里に手を引かれて立たされた瞬間、汐璃はバランスを崩してよろめいたが、千里が抱き留めてくれた。

 外で千里と密着したのは初めてのことで、汐璃の頬はすぐに紅潮していた。


「すみませんっ」

「家以外で汐璃と引っ付けて嬉しいよ」

「な、なに言ってるんですか?」


 由依の咳払いが聞こえ、二人は声を発するのを辞めた。


「詳しいこと後で聞かせてね」


 由依は手をひらひらと振りながら、二人を置いて大講義室を出て行った。





「あの二人、砂を吐くほど甘ったるいんだから見てるこっちが恥ずかしくなるよ……」


 由依がくすりと笑いながら独りごちていたことは知る由もない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る