第21話
「先輩、ちゃんと消しました」
汐璃は証明する為にスマートフォンを千里に差し出した。千里はそれを確認すると、スマートフォンをベッドの枕元に置いて、汐璃を抱き締めた。
「良い子だね」
「あっ……」
首筋に触れた千里の唇に、身を捩った。
これまでに何度も求められたせいで過敏に反応してしまうようになった。
「先輩……」
「違うでしょ、先輩じゃない」
暗に下の名を呼べと命令する。
(恥ずかしいのです……っ)
付き合い始めてから、名前を呼ぶように再三言われ続けているが、奥手の汐璃は恥じらいが勝り、中々呼ぶことが出来ずにいた。
「ごめんなさい……明日から、頑張りますから」
「もし、俺か汐璃が明日死ぬか、寝たきりになって口が利けなくなったらどうるの?」
「う……」
もしもの話だとしても、千里と会えなくなったり、言葉を交わせられなくなる日が来るのは、胸が痛む。
「絶対後悔するよ?」
(そ、それは有り得ます)
「じゃあ、呼べるよね?」
「ゃ、っ……」
優しく頬に口付けをされて、汐璃の心拍数は一気に上昇した。
(心臓が痛い……でも、女は度胸なのです!)
汐璃は意を決して、清水の舞台から飛び降りる覚悟で臨むことにした。
「……せんり、さん」
「え、聞こえない」
「せ、せ……千里、さん……っ」
頬に熱が集まっていくのを感じる。
面と向かって下の名前を呼ぶ行為は、汐璃にとってハードルが高かった。顔をまともに見ることが出来なくなり、布団の中に潜り込んで籠城してしまいたくなる。
「汐璃のさん付け、かなりくる……目もうるうるさせて殺す気?」
唇を啄むように塞がれて、くぐもった声しか出てこない。千里の舌が入り込み、捕らえられて執拗に絡ませられる。
(この深いキス、変な気分になってしまうのです……っ)
「あーあ、キスだけでもうこんなになってる」
千里の手が汐璃の服の中に入り込んだ。
「あ、やぁ、んっ……!」
長い滑らかな線を描く千里の指は、何もまとっていない膨らみに到達し、先端を責めた。
「声大きいよ……こうされるの期待してた?」
鼓膜を揺らす千里の色気のある低い声に、汐璃は強い疼きを覚えていた。
「ん、はい……」
黙秘権の行使は許されない。汐璃は素直に頷いた。
「今日はいい子に留守番出来たし、男の連絡先消してくれたから、汐璃が好きなこと沢山してあげる」
「……っ!」
艶然と微笑む千里を見た瞬間、汐璃の見える肌は瞬く間に赤く染まり、目尻に大粒の涙が浮かび上がってきた。
それは期待から来るものか、ある種の恐怖から来るものか……汐璃には分からずじまいだった。
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