第20話
いつの間にかお風呂から上がった千里が汐璃のスマートフォンを手にゼミの男子と話をしていた。
「あっ、先輩……っ」
濡れた黒髪に、肩に掛かったバスタオルから覗く細身ながらも引き締まった上半身。スウェットを履いただけのお風呂上がりの千里は目の毒であった。
「汐璃を誘ったの? 皆で映画? ふーん……汐璃は不参加ね。俺が行かせる訳ないでしょ――――金輪際電話かけてくんなよ」
千里は人が良さそうな柔和な笑みから一変し、人を躊躇いなく殺められそうな冷酷さのある無表情で低く吐き捨てた。
「画面暗くしちゃった……パスコードは?」
千里は真っ暗になったスマートフォンの画面を汐璃に見せている。自分に向けられる眼差しの圧が強い。
「え、あの……」
「早く言って」
汐璃はたじたじになりながら六桁の数学を述べた。
(隠すようなものは何もないはずですけど)
ネットの閲覧履歴も、電子書籍も見られて恥ずかしいものは一切ない。もちろん疚しい人間関係もない。
しかし、千里の眉間は皺がより、不機嫌を露わにさせていた。
「なんで、連絡帳に男の名前があるの? さっきの男以外のものもあるじゃん。俺のことが好きって嘘なの?」
「嘘じゃないです。家族と親戚と後はゼミの人だけですよ」
汐璃の連絡先に入っている男は、祖父、父、叔父、従兄弟、同じゼミの男子学生、以上。
二度目の合コンで知り合った人の連絡先はあったが、千里と付き合うようになってから自ら消した。
(先輩も女友達の連絡先ありますよね? 実際あるかは知りませんけれど……)
汐璃は千里に女友達がいても特に気にしていない。会いに行くことがあっても快く送り出せる。千里の人間関係を制限する気は全くない。
「この神戸
「はい」
隼人は父方の従兄弟だった。
ちなみにお互いの母親同士が学生時代からの親友だ。
「従兄弟って、何歳」
「十三……中学一年生です」
「じゃあ、消して」
「親戚ですよ? 私にとって弟みたいな子です」
七つ離れた隼人は、汐璃にとって小さな弟のような存在だ。最近身長を抜かされたが、その認識は変わらず。
「汐璃ちゃん」と姉のように慕ってくれている。今年のお盆の帰省した日、ホラー映画を見てしまい一緒に寝て欲しいと甘えてきたことがあった。
「いいから消す。ゼミの奴らもな……俺の言うこと聞けるよね?」
千里の黒さのある剣幕に逆らえず、汐璃は渋々同じゼミの男子と共に従兄弟の連絡先を削除した。
(やり取りは叔母さんのスマホを通してさせてもらいましょう。最近、隼人くん反抗期を迎えたらしいけど、大丈夫ですよね?)
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