俺の言うこと聞けるよね?

第19話

千里と付き合い始めてから数日が経過した。


 夜の十時過ぎ。汐璃は今千里の自宅で一人タブレットと無線のキーボードでレポートを作成していた。千里は今はアルバイトに出掛けていていない。


 一見、彼氏の家で過ごしているようだが、右手首から伸びる鎖が異様さを物語っていた。

 手枷は千里が家を出る前に付けられた。

 幸い鎖はお手洗いに行ける長さはあるが、外出は不可能だ。

 外に出ないから外して欲しい、と訴えかけても、千里が首を縦に振ることはなかった。


 レポート作成を終えて、汐璃は退屈になって来た。辺りを見渡して目に入ったのは、小さな本棚の上におかれている千里のノートパソコンだった。


(先輩のパソコン覗きたい……いやいや、プライバシーの侵害はダメです!)


 自宅に一人でいると元ストーカー女の性が出てきてしまうが、すんでで理性で抑えた。


「ただいま」


 夜の十二時過ぎになる頃、ようやく千里が帰って来た。


「おかえりなさい」


 汐璃は満面の笑みで千里を出迎えた。犬のしっぽが付いていたらぶんぶん振っていることだろう。


「いい子にお留守番出来たね」

 

 頭を撫でる。甘く綻ばせた千里の顔に、汐璃の胸はきゅうっと締め付けられる。


「これがなくても出来ますよ!」


 汐璃は右手を上げて手枷を見せてみたが、千里は汐璃の言葉をスルーした。


「シャワー浴びるね。汐璃は起きて待ってて」


 汐璃は千里がアルバイトに行く前に入浴は済ませてあるので後は眠るだけだ。


「分かりましたっ」


 千里を待っている間、汐璃はスマートフォンで由依のSNSの投稿を眺めていた。由依に勧められてアカウントを作ったが、ご飯の写真をあげるくらいで専ら閲覧が多い。

 一通り由依の投稿にいいねを押し終えた時、着信が来た。切り替わった画面には同じゼミの男の子の名前があった。


「もしもし」

「汐璃ちゃん、こんばんは」

「こんばんはっ。どうしたのですか?」

「いや、この間貸したDVD観たかなって?」


 先日、「面白いから見て」と彼がDVDを貸してくれた。


「あのDVD面白かったですよ!」

「良かった。汐璃ちゃん好きそうだなって思ってたんだ」

「ありがとうございますっ」

「それでね、その続編が近々公開されるんだけど、良かった一緒に観に行かない?」

「それって、みんなとですか?」


(先輩と付き合っている今、他の男の子と二人きりはまずいです……)


「あ……うん、そうだよっ」

「それなら大丈夫です。いつなんですか?」

「確か、来月の――――」


 その時、汐璃の右手に持つスマートフォンがするりと離れていった。


「汐璃の彼氏の斑鳩です」

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