おまけSS
きみを独占したい
第12話
千里 side
汐璃と初めて会ったのは、彼女がサークルの見学に来た時ではない。
千里が汐璃を見つけたのは、大学一年の頃まで遡る。
千里にとって運命的な出会いがあったのは、二月の中旬のことだった。
千里は当時付き合っていた彼女と、大学から近いカフェでコーヒーを飲みながら談笑をしていた。
「ごめんね、ちょっと電話してくるね」
「わかったよ」
彼女が電話をかけに店の外へ出た時、千里は手持ち無沙汰になり、暇つぶしにスマートフォンをいじっていた。
「――すみません」
ふと、背後から聞こえた女性の声が千里の鼓膜を揺らした。彼女が電話をしに席を外しているのいいことにゆっくりと振り向き、声の主の姿を確認してみる。
そこにいたのは、一言で言うと野暮ったい少女だった。
膝下のプリーツスカート、白のハイソックス、上まで留めたボタン、きっちり締められたネクタイ。ここでは見かけない学生服を規定通りに着ていた。
髪型は太めの三つ編みのお下げであった。
(凄いな。こんなダサさを極めた高校生、見たことない)
元号が変わって数年が経つというのに、少女の遥か昔の女学生のような格好は、店内で酷く浮いていた。
千里が通う大学はちょうど一般入試の日に当たる。彼女は遠方からやって来た受験生なのだと推測する。
午後の今は入試を終えて、緊張から解放されていることだろう。
いつもならすぐに視線を戻すところだが、千里は少女から目を離すことが出来なかった。
「はい、ご注文をおうかがいします」
「えっと、きゃ、キャラメルマキアートと……この、ミルクレープを、く、くださいっ」
注文を聞きに来た店員に対して腰が低く挙動不審な言動だった。しかし、少女から出る甘くて愛らしいソプラノは、千里の胸に深く突き刺さった。
鈴を転がすような声とは、まさにあの少女の声を指すのかと思った。
(なんて、可愛いくて甘い声……もっと喋ってくれ)
心臓の鼓動が暴れている。吐息でも構わないと切実な思いで耳をそばだてていた。
しかし、少女の声を堪能することは出来なくなってしまった。
「千里、待たせてごめんね」
もう少し耳を傾けていたかったが、彼女が戻って来て中断せざるを得なくなったのだ。
「大丈夫だよ」
(もう少し聞きたかったのに……)
千里は思ったより早く戻ってきた彼女に、密かに恨めしい思いを抱いていた。
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