第10話

 長く及んだ情交のせいでまともに動けない汐璃は、千里に身を清められ、彼のトレーナーを着せられた。

 一五三センチの汐璃が着るとブカブカで太ももが隠れてしまう。


 手枷は未だに外して貰えず(着替えの時に一度外されたがすぐに付けられた)、汐璃はベッドの上で千里に後ろから抱き締められた状態だ。


「先輩」

「ん、なに?」

「どうして、先輩は、私のこと……」


 ふと思い浮かんだ疑問だった。


「最初は声がいいなって思ってた」

「声ですか?」

「俺、重度の声フェチで。汐璃の声を初めて聞いた時衝撃を受けたんだ。鈴をころがすような声って汐璃のことを指すんだって思ったよ」


(気恥ずかしいです。声を褒められるのは初めてですから)


「サークルの日は汐璃の声が聞けるから、楽しみにしてた」


 千里は話をしている合間に、耳や髪、頬に口付けを落としていった。その度に汐璃の瞳はとろけて軟体動物のようにふにゃふにゃと脱力していく。


「でも、先輩は私のこと気味悪がっていましたよね」

「そんなこと思ったことは一度もないよ。確かに汐璃がストーカー行為を始めた時はびっくりした。でも、不思議と嫌悪はなくて嬉しいとすら思った」


(嬉しい? 先輩は変わっています)


「尾行する汐璃は、刷り込みされた雛鳥みたいで可愛いよ。ちょこちょこ俺の後をついていく汐璃の気配を感じながら帰るのは至福だった」

「気持ち悪いの間違いではなくて?」

「……汐璃は何しても可愛い。それでいてうっとりした顔は綺麗過ぎてタチが悪い」


 千里が早い段階でストーカー行為を知っており、泳がされていたとは夢にも思わなかった。

 もし、自分に好意がなければとうの昔に警察のお世話になっていたことだろう。


「汐璃がストーカーしなくなって、俺を避けて

 、目の前が真っ暗になったよ……この先俺に幻滅しても、離してあげないから」


 確かに千里の豹変振りには心底驚かされた。

 いきなり手枷をつけてきたり、脅しをかけてきたり、同意なしで求めたり、やることなすこと強引だ。

 彼に恐怖を抱いたことは正直否定出来ない。


「私は、どんな先輩でも好きです……皆が知らない先輩を見せてください……」


 しかし、千里のみんなが知らない表情を見る度に、胸はときめき、全てを許してしまう。惚れた弱みだ。


「束縛するよ? 汐璃の態度次第で監禁も視野に入れているから」

「か、監禁? これ、外してくれないのですか?」

「んー、今回は・・・日曜の晩に外してあげるよ」

「ええ……」

「今まで二回合コンに行ったよね? 後二回目の合コンで知り合った男と会ったの知ってるから」

「どうして、そのことを……」

「内緒」



 千里が零した「内緒」は語尾にハートマークが付いていそうなほど茶目っ気があったが、汐璃を見つめる瞳はどこか暗さがある。

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