第8話

「なんで? 俺のこと好きなんでしょ?」


 千里の語尾はきつく、断った汐璃を詰問しているようだ。


「……恋人になれば、いつか別れが来ます……私は、ずっと斑鳩先輩を好きでいたい。だから、ごめんなさい」


 汐璃は深く頭を下げたきり、顔を上げようとはしなかった。


(どんなに仲が良くても、ふとしたきっかけで壊れていく。私はそれ・・を目の当たりしたのです)


「汐璃」

「……」

「顔を上げろ」


 恐る恐る俯いていた顔を上げてみると、そこには笑みを深めた千里の顔があった。


「……ひっ」


 後ずさって逃れようとしても、手枷の鎖がぴんと張り詰めて身動きが取れなくなる。呆気なく千里の腕の中に捕えられてしまった。


「っ、」

「俺は汐璃を通報することも出来るんだよ?」


 耳元で囁かれた不穏な内容に、体が強ばり、肩が小さく震えだした。


「え……あ……」

「俺のものになるか、警察に突き出されるか、どっちがいい?」


 指で唇をなぞりながら究極の二択を提示され、汐璃は狼狽えてしまった。


「五つ数えるまでに答えて、ごー、よーん……」

「あの、まってくださいっ」

「さーん、にー」

「先輩っ、私……」

「いーち」


(無視、しないでください……っ)


「ぜー……」

「か、彼女になります……っ」


 汐璃はヤケクソで叫ぶように遮った。千里の彼女になった事実は覆すことは出来ない。もう、後には引けなくなってしまった。


「今日からよろしく」

 

 先程まで黒さのある千里の笑みは、よく見せてくれた人懐っこいものに変わっていた。


「今の発言、ボイスレコーダーに録音済みだから」


(今、凄いこと言い放ったような……私は、本当に先輩の彼女になってしまったのですか?)


 汐璃これまでの出来事を現実のものとして受け止めることが出来ずにいた。


 これは夢に違いない、と現実逃避をしていた汐璃だが、不意に体に感じる違和感を覚え、はっ、と我に返った。

 いつの間にか後ろから千里に抱きすくめられて、服の上から膨らみを撫でている。


「あの、手……いや、ぁ」


 体を走る刺激に汐璃は甲高い声を上げてしまった。恥ずかしくなって口元を手で押さえようとするが、千里に強く握られてしまう。


「今の汐璃の声、めちゃくちゃかわいい……だめだ、もう無理」


 千里は切なげに吐き捨てるやいなや、汐璃の着ていたニットをインナーと一緒にたくし上げた。


「なに、するんですか!?」


 汐璃は慌てて身を捩って抵抗をするが、千里の腕の拘束はビクとも動かない。ひんやりとした手のひらが腹部に触れて、汐璃の肩がビクンと揺れた。


「ちょっと、先ぱ……ひっ、あっ」


 下着のホックを外されて、締め付けから解放された。


 そのまま押し倒されて、なすがままに貪られ、二人の境界線が曖昧になるほどドロドロに溶かされ続けた――――

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