第4話

 この日は朝から講義だったが、入学時から仲のいい友人の由依ゆいが来ていなかった。チャットアプリでメッセージを送ってみるも既読すら付かない。


(何かあったのでしょうか……心配です)


 もやもやしながら午前を過ごしていたが、由依がやって来たのは昼休みが始まる時間帯だった。


「もう無理ー!」


 大勢の学生で賑わう学生食堂。由依は汐璃と顔を合わせるなり、大声を上げた。そして、席に下ろすとテーブルに突っ伏して虚無になっていた。


「何かあったのですか?」

「昨日彼氏と別れた……あたしとの約束、ドタキャンして、他の女と一緒いたの」


 由依は他の大学の同級生と付き合っている。

 昨日はデートだと言っていつも以上に上機嫌だったはずだが、今はこの世の終わりだと言う暗い雰囲気が漂っている。


「酷いです……」

「中々来ないから彼の家に行ったら、他の女とイチャイチャしてたの。あたし腹が立って彼のほっぺに五往復ビンタかまして急所蹴ってやったっ。あ、あぁあ……」


 由依は思い出したのか、すすり泣き始めた。


「由依、胸を貸すくらいしか出来ませんが、思い切り泣いていいですよ」

「しおりいぃぃっ」


 全てに濁音が付いていそうな涙声で、由依は汐璃に抱き着いて泣きじゃくった。周りの奇異な視線など気にしている場合ではない。

 由依の心が少しでも軽くなる方が大事だ。


 嗚咽を零す由依の背中を優しく叩きながら、汐璃は考えていた。


 思いが通じ合って、深い仲になれたとしても、諍いごとが起こり、仲違いをしてしまう。

 気持ちが消え失せて、二度と傍にいられなくなる辛さを味わうくらいなら、遠くから見つめていた方が幸せだ。

 ずっと好きでい続けるには、今の距離感が汐璃にとってベストであると改めて気付かされた。


(やっぱり、片想い上等なのです……!)


 汐璃は絶望している由依に申し訳ないと思いつつ、ストーカー行為を続けて行こうと改めて決意を固めたのだった。






「神戸汐璃ってあんた? 話があるからちょっと顔貸して」


 ……しかし、汐璃のささやかな幸せは長く続かないのだった。

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