ゴブリンズ


「はぁ…暇だ。寝れねぇし…」

 薄暗い森の中。アステラと別れた俺は、森の中で一夜を過ごすことにしたのだ。

 焚き木の火も消え、あたりも静か。特にやることもない俺は、ただひたすら満点の星空と睨めっこをしていた。


 なんか…おもしれぇ事ないかなぁ。


 木の丸太を枕のようにし、静かな大木に囲まれながら星空を眺めていると…


 ドンドコドン…ドンドコドン…ドンドコドン!!!


 遥か遠くから、微かに太鼓の音が響いてきた。最初は幻聴かと思ったが、よ〜く耳をすませてみると、それは確かに音を響かせていた。


 面白い事、ありそうだなぁ…!!


 俺は近くの切り株の上に置いていたと、を手に取り、音のする方へと走るのだった。





 

    ◆ ◇ ◆


 

 俺は音のする方へそろりそろりと近づく。すると、太鼓を鳴らしていたのは、まるで、祭りかのように踊りを踊っている小鬼ゴブリン供だった。俺は木の影からその様子を伺う。

 小鬼ゴブリンとは魔物の一種で、緑色でツノが生えていて、身長が人間の大体半分くらいの大きさがある。集団で狩りをしたり、村や町を襲っては人をさらい、金品を強奪するだ。

 それにしても、ここコイツらのアジト…みたいなものらしい。ゴブリンが持っていた松明たいまつに照らされて、酒樽やら動物の肉片やらがゴロゴロ置いてあるのがみえた。…本当にキミの悪い連中だ。


 どうやら小鬼ゴブリン供は、今日の狩りで大物を捕まえたらしい。周りを、ぐるぐると気持ち悪く踊り回っていた。

 その他にも、無垢な女性や小さい子供までが、はりつけになった状態で縛られているのが見えた。


 「人にまで手を出すようだったら、容赦は無しだ」


 俺は木の影から抜刀し、その内の一体のゴブリンの脳天を真っ二つに切り裂いた。




 ————————————


 ゴブリン達は、自分の仲間が俺に真っ二つに切られた事を確認すると、すぐさま俺の方を警戒し、こちらを睨むように凝視する。


「1匹2匹3匹…さぁ、やっちまうか!!」

 俺が四方八方のゴブリンをゆっくりと見渡していると、そのうちの一体が俺目掛けて木の棍棒を振り下ろしてきた。

 剣で棍棒を弾き飛ばし、俺はそのままの勢いで相手の首を切り落とす。


「おせぇんだよ…」

 俺は首が無くなったゴブリンの胴体を味方へと蹴り飛ばす。すると何人かのゴブリンは、首が無くなった体とともに、後ろに吹き飛んでいった。

 味方があっという間にやられたのを察知すると、殆どのゴブリン供は俺に怯え、その場から動かなくなった。

 しかし、それでも何匹かのゴブリンは、懲りずに俺の方へと向かってきた。


 俺は奴らの攻撃を軽い身のこなしで回避し続け、味方同士で攻撃し合う様にうまく位置を調節したり、先ほどと同じ様に、ゴブリンが持っている棍棒やら剣やらを弾いて首を切るなどして、数匹相手のゴブリンに優位に立ち回っていた。


「ゴロロロロロ!!!」

 突然、暗闇の奥から大きな鳴き声がした。ゴブリン供はその声を聞くと、声がした方へ膝をつき、こうべを垂れた。

 そして、それは暗闇の中からのそりのそりとこちらにやって来る。


「ほぉ…ゴブリンの王、ゴブリンロードと言ったところか」

 それは俺の体よりも三回りほど大きく、ガッチリとした体格に大きな皮で出来た鎧をその身に纏っていた。


 ロードは、こちら一点を静かに見つめた後、地面を揺るがすほどの音で吠えた。

「ゴオォーーーーー!!!」

 自らの王の雄叫びを聴くと、ゴブリン供は一斉に歓声の叫びをあげた。


「まさか魔物の中でも有数のロードに会えるなんてな。俺も相当運がついてるぜ」

 剣を鞘から抜刀し、俺はロードの前に立ちはだかった。


 ロードは、俺が剣を抜いたのを見ると、巨大な腕でそばに生えていた大木を根っこごと引き抜き、自らの腕に構えた。


「マジかよ…」

 そのまま奴は、まるで木の棒を振り回すかの様に、大木を振り下ろした。

 俺はすぐさま走り、大木を回避する。ものすごい高音とともに生まれた風圧が、俺を宙に吹き飛ばした。

 空中を回転しながら大木が振り下ろされた方を見ると、大木が振り下ろされた地面には、数十メートル級の巨大なクレーターが空いていた。


 成る程、火力は申し分ないな…こりゃ当たったら軽く死ねるわ。


 空中で体勢を立て直し、俺は地面へ着地しようとしたその最中、俺の横目からはミシミシ音を立てながら大木が迫ってきていた。


「マジかよ…!!」

 俺は即座にスライディングで目の前に迫ってきた大木を回避し、そのままロードへ距離を詰める。

 剣を抜刀し、ありったけの脚の力を使い宙に再び飛び上がった後、ロードの目玉を切り裂く要領で、横薙ぎを払った。


 しかし、ロードは自らの前に大木を挟み、間一髪で目玉が潰れるのを回避した。


「図体がでけぇくせに、反射やスピードも一級品だな…」


「ゴルルルルル…」

 ロードは大木を横から激しくスイングし、宙を飛んでいた俺を振り落とそうとする。俺は咄嗟に剣を構え、剣に大木が激しく当たった衝撃を受け流し空中へと逃げる。視界をぐるぐると回しながら宙を舞い、大木の上に降り立つ。そのまま大木を走り、ロードの顔が迫った所で、脳天から剣を振り下ろした。

 しかし、その斬撃もロードの持っていたによって防がれる。




 だがな…


「二度も同じチャンスを…このが逃すわけ…ねぇだろうが…!!!!」

 俺は剣にありったけの力を込める。大木はバキバキと鈍い音を立てた。


 「さっさと切れて、くたばっちまえよぉ!!」


 剣は大木をバキバキと破壊していき、遂には…ロードの皮の防具ごと、地面まで体を切り裂いた。


「ゴララララァァァァ!!!!」

 体を切られたロードはものすごい雄叫びを上げ、俺はハァハァと息を切らしていた。


「ど、どうだよ…なめんじゃねぇぞ。くそゴブリン」

 すると、急にロードはピタリと鳴くのをやめ、俺の方を見てニヤリと笑った。


 何故今になって笑う?何か対抗策でもあるってのか??


 ロードのこの行動に俺は違和感を覚えていたが、その理由をすぐに理解する事になる。

 俺の目に、ロードの近くで磔になっているの姿が見えたからだ。


 おい、お前…!!


 ロードは自分の持っていた大木で、磔になっている女性を叩き潰そうとする。女性は自分の悲惨な運命を悟ったのか、そのまま静かに目をつぶっていた。

 俺は走った。自分のボロボロの革靴で足から血が吹き出るくらい力を加え、全速力で走った。そして大木を正面から、で受け止めた。


「ぐぬぬぬぬぬぬ…」

 自分の筋肉がミシミシと音を鳴らし、自らの腕から血管が浮き出てきているのがわかる。だけど…ここを退くわけにはいかない。


「貴方…」

 後ろの女性が、声をかけてきた。

「もう良いよ…私は」

 彼女は涙を流し、こちらを心配そうに見つめていた。


「奥さん…僕はね、にそんな事言われても、引くはずがないんですわ」

 自らの体でロードの体を強く、押し返す。


「えっ?」


「そんなで死なれると、余計後味が悪いじゃないっすか…!!」

 俺が更に力を強めると、ロードはその場でよろめき、尻餅をついた。しかし、ロードの顔から、気味の悪いは消えては無かった。


「ゴラララ…!!」

 ロードが合図の様なものをすると、何処からともなく弓を持ったゴブリン供が現れ、こちらへ矢先を向けた。

 俺は咄嗟に剣を構え、女性を庇うように、前に立ちはだかった。


 一発一発一発…と俺に矢が次々と放たれる。剣で必死に矢を弾いていたが、それでも何発かは体に刺さった。矢が刺さるたびに、自分の体は段々と重く、動かなくなる。


…だな。こりゃ」


「ゴラララ…!!」

 再びロードの合図により、ゴブリン供は弓を下ろした。


「もう、やめて!!」

 後ろにいた女性が叫ぶ。


「そんなボロボロの姿で、立たないでよぉ。私の前に!!!」


 あ、そういやなんでここで戦ってたんだっけ。この人を助けるため?

 いいや…ただの暇つぶしに来たんだ、その過程でこの人を助けた。ただそれだけ…


 「悪くないさ…こんな日も」


 俺はロードが持っていた大木のフルスイングで、思いっきり宙に吹き飛ばされたのだった。





 ————————————


 俺は虚な目をひらいた。周りには、ニヤニヤと気味悪く笑いながら近づいてくるゴブリン供がいた。

 どうやら俺は、があった方へと、その身を飛ばされたらしい。後ろで磔にされていた女性は、こちらの方を向きながら、静かに泣いている。


 あぁ…彼女は助かったんだ。


 そんな事を考えると、ますます自分の事なんてどうでも良くなった。

「ハハッ、まさかここまで強いなんてなぁ…ロード


 違うか…俺が弱魔体質でろくに回復魔法とか、便を持っていなかったからだ…いいや、それも違うか。ただ、だ。

 相手の力量も測れず、暇つぶしなんて言って敵陣に突っ込んだからだ。


「馬鹿だな俺。そんなんだから、誰からも認めてもらえないんだろうが…」

 



 俺はゆっくりとその場に立ち上がり、ゆっくりと深呼吸した。そして、今出せるありったけの声で叫んだ。


「かかってこんかい、このど畜生供が…!!」

 ヨロヨロとその場に立つ俺見て、ゴブリン供はただ気持ち悪い声で笑い続けていた。


 ハハッ…笑われっ子は慣れっこだ。こん畜生…






『ヘヘ…面白い小僧やのぉ』


 誰だ…お前?


 その瞬間、後ろの檻から今までにない程の雄叫びがした。ゴブリン供が、風圧により後ろに吹き飛び、こちらの方をポカンと凝視している。

 すると、俺と大きな檻の周りは、ボウッと火の粉に包まれた。

 俺は、檻の方をゆっくりと振り向く。檻の中にいたのは、赤いうろこに覆われた1だった。


『おっ…ようやくこっち向いたな。もしもーし…聞こえてますか〜?』

「聞こえてるよ、…」

『えっ、マジ!!本当に聞こえとんのかいな!!!』

 龍がピョコピョコと、檻の中を狭く跳ね回っている。


 一体何なんだ…!?お前は。


『俺はさかいに…燃やしちまおってかな。ガオー』


 おい…!!お前…俺の心の中、読めるのか?


『読めるで。…っと、それでアンタに一つ確認なんやが…こんなちっさなみたいなの…持ってないか?ってジョークやけども…』

 俺はそれに心当たりがあった。俺は震える手でバックの中をガサゴソと漁り、黒服が持っていた、を取り出した。


「もしかして、これの事か!!?」


 そのトカゲはそれを見た瞬間、檻の中で盛大にひっくり返った。

『ドヒャー!!ホンマやがな、ホンマに持っとるやんけ!!!!』


 自分で言ったくせに、自分でひっくり返るんだ…


『ジョークやってつもりやったんに!!まぁ…それなら話は早いで。今すぐそのスタンプを自分のに押した後、俺のデコにポンッと押してくれや。そうしたらようさん凄いことなるでぇ!!』


「そうしたら、何が起こるんだ?」

 俺は真剣にその龍に聞き返す。


『知らん!!』

「はあっ??」

『ほんまに知らんねんて。うちのドラゴンの一族に伝わる、伝承…みたいなもんなんや」


 伝…承…?


『まぁまぁ気にせんと…はよ押してくれや。はーよはーよ…』


 コイツのことを完全に信用できる保証はないが、正直他に…この状況を切り抜けられる策が思いつかない。


「うっさいなぁ、分かったよ…」


 俺は龍のスタンプを、ゆっくりと自分の腕に押した。


「こう…でいいか?」

『あぁ、わいにも頼むで。優しくな』

 俺は檻の外から手を伸ばし、このうるさいトカゲの額にも優しくスタンプを押してあげた。

 と、次の瞬間…俺の腕とそのトカゲがに包まれたのだった!!


「うわぁあ!燃えてる、燃えてる!!」

『さぁ、こっからどうなるかって話やな…』

 俺の腕から出た炎が、火の粉でトカゲを包み込み、そのまま


「おい…」

『これって…』

『「合体したぁあ!??」』

 なんと檻の中に入っていたトカゲの体は、突如現れた炎により、スルスルと入ってしまったのだった。


「おい、どうなってるんだよ……!!説明しろ、トカゲ!!!」

『そういうことかいな…!!伝承の「一心一体で戦う」ってのはこういうことかい。それにトカゲちゃうわ、ファイアドラゴンじゃ!!!』

「今更やかましい!!ともかく…こっからどうにかなるんだろうな!!」

 俺はこのトカゲに対し、壮大に圧をかける…っていってもコイツは俺の中だけど。


『えぇとな…スタンプ押した後は、を唱えなあかんって、爺ちゃんが言うとったわ。確か…「ヒヒリュウアカリュウシュワンロッポンダイコウリン」やったかな』

「シュワン…なんだって??」

『「ヒヒリュウアカリュウシュワンロッポンダイコウリン」や』


 なんだよその呪文。あぁ…もう考えるのはやめだ!言えばいいんだろ、言えば!!!!


 俺は大きな声で叫んだ。

「ヒヒリュウアカリュウシュワンロッポンダイコウリン!!!!!」



   ◆ ◆ ◆


 燃え盛る炎の中で、何が起こっているか分からないゴブリンロードは、ゴブリン達と一緒に、呆然と立ち尽くしていた。ゆっくりと炎は時間をかけ、段々と弱くなっていき、中の様子があらわになる。

 ロードは中から出てきた者を見て、驚愕の表情を見せた。それもそのはず…さっきまでボロボロだったはずの剣士は、自らの宿、ボウボウと火を立てて燃えているをその手に持っていたからだ。



   ◆ ◆ ◆


『えっと、呪文を唱えた後は、確か…こう言うんやったな。「火炎龍ファイアドラゴン!熱血大剣ズババババン!!!!」』

 

 

 


 

 

 

 

 


  

 


 

 

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