ソードラゴンズ〜魔法が使えない剣士は龍を宿し、竜剣士へと成り上がる!!〜

ファンラックス @堕落休

盗まれた秘宝とただの剣士

 その日、大陸の端に位置するで事件が起こった。国の美術館に展示されていた大秘宝…が盗まれたのだ!!

 町中は混沌を極めた。特に、貴族や大臣といった上位国民は気が休まる状況ではなかっただろう。なにせ、その事を知ったが怒り狂っていたからである。


「愚か者ども!さっさと龍印を取り戻してこい‼︎さもないと、打首にするぞ…‼︎」

 の怒声がロッテン城の会議室に響き、席に座っていた大臣や貴族達は逃げるように部屋から出ていった。


「早く見つけんと…大変な事になる…」

 王はたった一人、残った会議室の中でそう呟くのだった。





    ◆ ◇ ◆


 そんなことはつゆ知らず…

で、一人の若い男と女が仲睦まじく会話をしていた。


 

————————————

 

「全く、王都のが、こんな所で一飲みしちゃっていいんすかぁ?」


…それはお互い様よ」

 俺達はロッテン王国の王都から酒場で、二人で思い出話に入り浸っていた。お陰でこの有様ザマだ。

 

「なぁ…アイツらどんだけ飲むんだよ。もう二人で十杯は飲んでるんじゃねぇか?」

 後ろの席から、男達のひそひそとした声が聞こえる。


「あぁ…あの女、知ってるぞ…‼︎ロッテン騎士団五番隊隊長、だよ」


「知ってる知ってる…確か、自分よりも大きな斧を巧みに振り回し、強敵をバッタバッタと倒すって噂だぜ」

 静斧のアステラ…まるで霧のように相手に近づき、静かに相手をその巨大な斧で切り落とす様から付けられた名だ。ちょうど、目の前に座っているのことであるがな。

 アステラは男の話を聴いて、こちらを見てウインクをした。


 なんか、すんごいムカつくのだが…


 俺がそう思っていると、男が更に口を開く。

「じゃあ…アステラ様と一緒に飲んでいる、もう一人の男は誰だ?」


「確かアイツは…だったか?」

 男達はその名前を口にした後、クスクスと笑い始めた。


「あぁ知ってるぜ、だろ?魔法錬成もできねぇ、ただの落ちぶれ剣士だ。ギャハハハハハ!!」

 もはや隠す気がないのか、それともこらえられなかったのか、男達は大声で笑い始めた。


 弱魔体質…使の事を指す。

詳しいことはわからないが、魔法が体に適応できないため使えないと…本で見た事がある。

 弱魔体質自体は、別段珍しい事例というわけではない。

 しかし、今のように弱魔体質はかなりになりやすい風潮にある。俺もそのせいで…苦労した。

 ただ、今の俺は、特にその事については気にしていない。ただ、それよりも心配な事が…


「おい…」

 いつの間にか男達の席の前に立っていたアステラは、席で大笑いしていた男達に静かにそう言い放った。静かながらもその声には、明らかに殺気のようなドス黒いものがこもっているのが分かる。



 やべぇ!!マジでこの時のアステラはやべぇ…!!!


 

 アステラはそのまま席で、ポカンとしている男達に続ける。

「なんだテメェら…今誰を笑った?なぁ、言ってみろよ」

 そのままアステラは男の首を掴み、宙に持ち上げる。


「言ってみんかいゴラァ!!!」

 アステラに持ち上げられた男は、あまりの恐怖とショックで泡を吹き、気絶した。もう一人の男は半泣きになっていた。


 そりゃぁそうだ…いつもはあんなに静かでクールなアステラ様は、一度切れると歯止めが効かなくなる、生粋のなんだから。


 「ヒィィィ‼︎お許しをぉアステラサマァ!!!」

 もう一人の男は席の奥に逃げるように手を付きながら、今だに怒りが収まらないアステラに許しを懇願した。


「なぁに泡吹いとんじゃゴラァ!!顔面すり潰したるど!!!!」

 アステラが、首根っこを掴んでいる男の顔面に殴りかかろうとした瞬間…


「アステラ…いい加減にそこまでにしといてやれ。俺はもう、何にも、気にしてないからさ」

 俺はアステラの重い拳を、手のひらでサッと受け止めた。


今まで我を失っていたアステラは、自分の拳が俺の掌に当たっているのを見ると先程とは打って変わって、静かに泣き出した。

「ごめんなさい…‼︎貴方を殴るつもりはなくて、ごめんなさい!!」


「あぁ…、アステラ…?いいんだよ、俺は別に…」


 怖えぇ…女って怖ぇよ。


 しばらく俺が、泣いているアステラにどうすればいいのか分からず、オロオロとしていると、店の中に一人の男が入ってきた。

 は、アステラの部下の一人だった。


「アステラ様、王都の方に召集がかかっております故、馬車を近くまで移動させました。何卒、私のご勝手なをお許しください」

 男はアステラの前に膝間付きながらそう言った。


 その言葉を聞いた瞬間、アステラは雨がピタリと止んだように泣き止み、男にこう返した。

「分かった。伝令せよ…‼︎すぐ向かうとな…」


「ハッ…!!」

 男は王言い残すと、さっさと店から出て行った。


「すまん…仕事のようだ。私はもう行くよ」

 アステラは悲しそうに俺の方を振り向いた。


 

「あぁ…!!ただしな…今度会った時はしっかり奢ってもらうぞ、隊長さん」

 悲しそうに俺を見つめるアステラに対し、俺はにこやかに笑いながらそう言った。すると、アステラも俺の顔を見てニコリと小さく笑った。


「分かったよ、な…親友。それじゃあ…!!」

アステラはそう言い残し、酒場を去っていく。


 

「あぁ…だ。親友」

 


 酒場のドアは閉まり、静かな喧騒だけが俺の耳に残るのだった。


————————————


「マスター!もう一本追加!!」

 静かになった酒場で、俺は一人飲むのを続ける。

 さっき、男達の一人が言った言葉。気にならないと言ってみたはいいものの、それでも俺は、時々考えちまう。


 もし、俺に使のなら、もし俺が誰からも認められる力を持ったのなら、どんなに良かったのだろう…と。



 

    ◆ ◇ ◆


満点の星空…酒場から出た俺は一人、を歩き続けていた。歩き続けて森に差し掛かろうとした…その刹那…!!


 後ろから空を切り、こちらに小刀を向けてくる者がいた。

 鞘から片手剣ソードを抜き、俺はその小刀を弾き飛ばす。小刀はそのまま、土へと突き刺さった。

 奴は小刀を拾いに行こうと、すぐさま駆け出した…が、俺はそれをみすみす見逃すほど甘くはない。


 俺は奴のを思いっきり引っ張り、こちらに引き戻した。そのまま首筋に剣の刃を当て、奴に静かに話しかける。


「よぉ…後ろから不意打ちとは、随分卑怯だなぁ。せめて正面から来て欲しかったものだよ…」


「チッ…」

 奴は唐突に後ろ蹴りを放ってきた。その蹴りを回避するのは簡単ではあったが、あいにくそのまま距離を離されてしまった。

 自由の身となった男は、すぐさま落ちていた小刀を拾い、俺に向かい合った。


 服装を見た感じ、どこぞのと言ったところだろう。


「おい、黒服。このまま尻尾巻いて逃げるんなら、俺は何もしねぇ。死にたくなかったら、今ここでそのをフル回転させるんだな…」

 俺はこめかみを指でトントンとつついてみせる。


「覚悟!!!」

 男は急に大声をあげ、俺に切りかかった。


「あーあ…そのを最初から見せてもらいたかったもんだね。もう遅いよ、アンタ」

 男の手から飛んでくる斬撃の数々を、右に避け、左に避け、宙を舞い、宙返りをしながら巧みによけていく。

 地に足をつけた瞬間、男は俺の方へ小刀で突きを放ってきた。俺は咄嗟に自らの剣で小刀を弾き、勢いのまま迫ってきた男の喉元に、自らの剣を突き出す。

「やるねぇ君、は中々。でもやっぱり頭が足りないなぁ…」


「黙れ…!!」

 男はすぐさま横薙ぎを払い、再び距離をとった。こちらを睨む男の顔は、底知れないと、まるで得体の知れないものを見た時のようなが混じり合った…そんな顔をしていた。体も小刻みに震え、無意識に後退りまでしている。


「ハァ?ビビってやんの、ほれ来いよワンちゃん!!ここまで来れたらジャーキー、一本やるぞぉ…!!」

 俺は奴に対し、手招きをしながら挑発を繰り返す。


男は歯ぎしりしながらこちらを睨んでいたが、次の瞬間…!!こちらへ凄まじい踏み込みをみせてきた。その踏み込みは伊達なものではなく、まるでのようであった。


全く…こんなに強いんだったら、盗賊なんてチンケな事やらずににでも入っておけよ。俺のに紹介しちまうぜ。


  

俺は剣を鞘に戻した。

「抜刀…」

 俺は男の突きを避け、男の体制が崩れたところを、すれ違いざまに一切りに…

「真剣赤化粧あかげしょう



 俺の剣は血に濡れ、後ろからはその場に倒れる男の音がした。


「悪いな…あまりにも速すぎて、つい反射で切っちまったよ」

 俺は後ろを振り向き、胸元から血を吹き出し仰向けに寝そべる男にそう言い放つのであった。





 ————————————


「はぁ…これで隣町に行くまでポーションは無し。までどうすりゃ良いっつうんだよ」

 傷口がで塞がり、ごもっともな顔をしながらに、俺はそう愚痴をこぼすのだった。


 流石にこんな事で殺すまではできないからな。でも納得いかねぇ…




 「よし!男の金品、奪っちゃおっと!!」

 俺は男の忍者のような黒服を剥がし、男が持っている物を片っ端から漁る。


 こいつから襲ってきたし、別に良いよな…!?


 男が持っていたのは少しの金、袋に入った、そして…

「ん、何だこりゃ?」

 俺はそれを拾い上げ、月の光に照らしてみる。金ピカに輝かしく光るそれは、龍の形に彫られている、のような物であった。


「スタンプ…?ハンコ…?それにしちゃあ、随分と高値がつきそうな代物だな。貰ってくか!!」

 俺はそのハンコを手に持ち、そのまま森の中へと陽気に進んでいった。



    ◆ ◆ ◆


 人々から虐げられる存在である弱魔体質の一人、無魔剣の剣士フォール。この時彼は知らなかった。このハンコこそが、盗まれた秘宝である事に。

 そしてここから彼の、としての成り上がりの旅が始まった事に…!!






 

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