第87話




体が揺れるのを感じて目が覚めた。



走行音が聞こえる。……車の中……?


起き上がろうとするが体が動かない。


手足を縛られ後部座席に乗せられているようだ。



「ああ、起きましたか」



運転席にいるのは案の定後輩ストーカーだ。


周りを確認するが、乗っているのは私だけだ。トランクの方も何やら釣具のようなもので埋まっていて人がいる気配はない。



「……玲美と空斗は?」


「いりませんよ、あんな付属品。僕がほしいのはゆきさんだけですから」


「……」


「僕、考えたんです。ゆきさんが活動をやめてくれたのは僕にとってはメリットだなって。もうゆきさんが汚いおじさんの目に晒されることはなくなる。今後ゆきさんは僕だけのものです」



汚いおじさんよりお前の方が害悪だよ。


心の中では強気なことを思っても、さすがにこの状況では口には出せない。


今こいつを怒らせたら何をされるか分からない。



カーナビを見る感じ、もう隣県の隣県近くまで来ている。


私が眠ってしまってからかなり時間が経っているのだろう。



「どこに向かってるの?」


「僕の祖父が持っている別荘です。外から鍵をかけられる部屋があるんですよ」



こいつ、私を監禁する気!?



どうしよう、縛られた状態じゃ打つ手がない……と焦っていると、ストーカーが途中のサービスエリアに停車した。


どうやらここは高速道路の途中のようだ。



「じゃあ僕、トイレ行ってくるんで。ゆきさんは何か飲みたいものありますか? 買ってきますよ」


「私もトイレ行きたいかもって言ったら行かせてくれたりする?」


「それはだめですね」



デスヨネー。



「ほしいものがないならもう行きますね。大人しくしててください」



そう言ったストーカーがいなくなった後、何とか顔を上げて外の様子を見てみたが、小さいサービスエリアのようで人が少なく、ここで大声を出したところでストーカーにバレてしまうだけなような気がした。



何かないかと思考を巡らせていた時、後ろポケットのスマホが震えていることに気付いた。


おそらく着信だ。



あいつ無用心すぎだろ! スマホ回収してないの!? と誘拐犯ながらこちらが心配してしまう。




手足を縛っていればスマホがあっても操作できないと思ったか?


現代の科学技術を、人類の英知を、技術の進歩を舐めるな。



「Hey, Siri――電話に出て」



今の時代、iPhoneの設定次第では手など使わずとも電話には出れるのだ。

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