第86話

しばらく話したが、ストーカーはいつまで経っても自分の非を認めない。



「あのねえ、私たちあんたが謝ってもうしませんって言うまで離れないからね?」



ついに玲美が少しイライラしたような口調で言う。



そこで、ストーカーがにやりと気持ちの悪い笑顔を浮かべた。


これまで見た中で最も邪悪な、何か悪巧みをしているような顔だ。



あれ……? さっきから、やけに眠いような……。



「皆さんそろそろ効いてくる頃ですかね?」



次の瞬間、玲美が力が抜けたようにテーブルに突っ伏した。



「最近暑いですからね、水分が目の前に置かれていたらつい飲んでしまいますよね? たとえ僕が用意したものでも」



……まさか……。


嫌な予感がしたその時、隣の空斗もテーブルに突っ伏す。そして何とか眠気に逆らうようにストーカーを睨み、弱々しい声で言った。



「ってめぇ……こんな典型的な悪役みたいなことしやがって……」


「ふふ、先輩方、寝不足みたいですね? ゆっくりお休みくださいね」



――この水、ちょっと変な色してるかもとは思っていたのに。


こんなに人がいる学生食堂で妙なことはしてこないと高を括っていた。






私の意識がはっきりしていたのは、そこまでだ。

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