第81話

「しかもこいつ、あいつだよ」



琉偉がパソコンの画面を私たちの方に向けて住所とマップを見せてくるが、私はその住所に覚えがなく首を傾げてしまった。


怖いのは、思ったよりも近い場所に住んでいる、ということだ。



「覚えてない?」


「え……私が知ってる人……?」


「去年ゆきちゃんをストーカーしてた、ゆきちゃんの大学の後輩」



ゾッと寒気が走った。


私があの雨の日のクリスマスに鞄をぶつけて退散させた後輩。あれ以降何もなかったから、てっきり私の脅しに屈したのかと思ってたのに……。



「沢辺さん、ストーカー被害に遭っていたんですか? 酷いですね……」


「空斗、あんたのその喋り方で更に寒気するからいつもみたいに喋って」


「え? 俺はいつもこんな感じですが……」


「沢辺さんって呼び方もキモいし」


「あァ!? てめぇな!」



喧嘩を売ってやればようやく空斗が元のテンションに戻り始めた。



「そいつの写真とかねぇのかよ? 同じ大学なら俺と玲美で話つけにいくこともできんだろ。俺こう見えて中高ボクシング部だったからいけるぞ」


「あ、僕も大学時代合気道部なのでいけますよ」



空斗と藤井さんが口々に言う。


何がいけるんだよ。暴力に物を言わせようとするな……って、あいつに鞄ぶつけた私が言えることじゃないけど。



「顔写真と本名は昔調べたやつがあるよ」



琉偉が画面を変えると、あの後輩の顔が出てきた。


一番敵に回したら怖いのはやっぱり琉偉かもしれない。



途端、「あー!」と空斗がデカい声を出した。



「こいつ、俺のダチのサークルの後輩だよ。一回飲み会で一緒になったことあるぜ」



さすが顔の広い空斗である。



「確かにちょっと変わった奴ではあったけど、いい子そうだったしストーカーするような奴には見えなかったけどなあ」


「何言ってんの。世の中そういう表向きいい人な奴が一番怖いのよ……まさかっていうような人がまさかっていうようなことしてんだから」



過去に元彼にストーカーされた経験のある玲美の発言は重みが違う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る