第79話

「…………玲美と三人で仲良くしてる、大学の友達だよ」



二階に着いてからようやく口を開くことができた。


琉偉が背後に黒いオーラを纏っている気がしてうまく喋ることができない。


念のため“三人で”を強調しておいた。



「それって、あの写真の人?」


「う、うん。でもオタクたちにも説明した通り別にあいつとは何もなくて、ただゴミ取ってただけ」


「ふぅん……あいつ、ゆきちゃんにゴミ取ってもらったんだ」



おかしい、気温がまるで冬のようだ。



「ちょっとバカップル、早く部屋入ってきてくれる? 廊下で痴話喧嘩しないで」



部屋のドアを開けて藤井さんを中に入れながら、玲美が私たちのことも手招きしてくる。


私はその誘いに逃げるように部屋へ駆け込んだ。



「じゃあ私キッチンからクリームシチュー持ってくるから」


「手伝いましょうか? 女性一人に運ばせるのはちょっと」


「あら~。雪、この人いい人じゃない!」



玲美の部屋のローテーブルを囲んで座布団に座ると、早速玲美が晩ごはんを持ってきてくれようとする。


ここで琉偉と二人になるのが気まずいので藤井さんと玲美に“残れ!”という視線を向けるが、藤井さんと玲美は何故かグッドサインを送ってきたうえに出ていってしまった。あいつら……気を利かせてちょっと二人にしてやろうって思ったんだろうな……。



ちらっと隣の琉偉を振り向くと、予想以上に至近距離まで来ていた。



「ゆきちゃん、抱きしめていい?」


「ち、近、近い」


「“空斗”とはこれくらいの距離だったよ?」



制止してみたのに琉偉には全く響かず、座った状態のまま背中に手を回されぎゅうっと抱きしめられた。


――心臓がうるさい。琉偉に抱きしめられるのは初めてではないはずなのに、改めて恋人として抱き合うとドキドキする。



「ゆきちゃん、めちゃめちゃ心臓バクバクいってる」



くすっと頭上で琉偉が笑う気配がした。


さすがにこんなに密着していると伝わってしまうらしい。



「可愛い。食べちゃいたい」



琉偉が少し離れ、私の頬に大きな手で触れる。


その顔が少し傾きつつもゆっくり近付いてくるので、キスするつもりだと察してぎゅっと強く目を瞑った。





唇と唇が触れ合う――直前、ドアが開く音がした。



「え、は!? マジで城山琉偉じゃん!? 本物かよ!?」



慌ててそちらを見れば、心底嬉しそうな空斗が立っている。

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