ゆきちゃんしか好きじゃない！

第76話

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「お付き合いおめでとうございます！」

「まだ何も言ってませんけど」

琉偉と一緒に地下駐車場に戻ると、車から出て待っていたらしい藤井さんが盛大な拍手をかましてきた。

パチパチパチパチィ！と妙に手のひらで音を立てるのがうまくうるさいことこの上ないので無視して後部座席に乗り込む。

続いて琉偉も乗り込んできた……のだが、距離が近いので睨んだ。

「もうちょっと離れて座ってくれる？　藤井さん見てるよ？」

「藤井だしいいでしょ」

「一応僕幼馴染みなんですからもうちょっと恥ずかしがってほしいものですが、まぁ、その様子だと本当にうまくいったんですね。よかったよかった」

運転席に乗り込んだ藤井さんが、バックミラー越しに私たちを見つめて微笑んでくる。

確かに、幼馴染みということは感覚的には家族に近いはずだ。琉偉は家族に彼女といちゃついてるところを見られても平気なのだろうか……。

「琉偉、珍しく今日の夜は何の予定もないですよ。デートでもしたらどうですか？　行きたいところがあればこのまま送っていきますよ」

「あ、じゃあゆきちゃんの家で」

「おいおい待てコラ。私の家は駄目だから」

笑顔で即答した琉偉の頬をぎゅっと引っ張る。

これまで琉偉はあくまでもオタクの立場だったから私に迷惑をかけないよう私に手を出さなかっただけ。彼氏という正式なポジションを手に入れたからにはがっついてきても不思議ではない。長年溜まったオタクのフラストレーションが爆発するとどうなるか予想もつかない。

それが恐ろしく、断ってしまった。

「まだ早いってこと？　大丈夫、俺、優しくするから……」

「何が大丈夫なんだよ」

いやらしい感じで私の手に触れて恋人繋ぎをしてくる琉偉に思わずツッコミを入れてしまった。

早い早い。展開が早い。まだ交際始まってから一時間経ってない。

「琉偉、本当すごいですね。幼馴染みの僕の前でシモの話できるなんて。逆に僕が気まずいんですが」

車を走らせる藤井さんも困っている。

「行き先は玲美の家でお願いします」

私の家が駄目と言ったところで行ける場所は玲美宅くらいしかないので、琉偉が何か言う前に私が決断した。

今琉偉と二人になったら琉偉が獣化しそうということも踏まえたうえでの判断だ。琉偉は少し残念そうにしているが。

玲美に特に事情は説明せずに【今から琉偉と家行っていい？】と送ると、イイヨ！というおどろおどろしい化け物のスタンプが数秒で返ってきた。私はいつも玲美のスタンプの趣味を疑っている。

「……あ。そうだ、ゆきちゃん」

と、急に琉偉が真剣な表情をして自分のスマホで写真を見せてきた。

「これ、誰に撮影されたかは分かってるの？」

――例の玲美や空斗も写っている盗撮写真だ。

あれだけ炎上したのだから当然琉偉も知っているのだろう。連絡がなかったのは私が琉偉を突き放した直後だったからで、琉偉としても相当気になっていたはずだ。

「……そこなんだよね。私もそこが気になってて」

「やっぱり、まだ分かってないんだ」

「うん……。犯人探しとか無駄でしょ。別に裸盗撮されたわけじゃないし、これで警察に言っても対応してくれないだろうし。誹謗中傷書き込みを開示請求してもらうって手もあるけど……」

琉偉に気持ちがバレたことで焦って色々頭から飛んでいたが、そう、私は今炎上がようやく落ち着いたところなのだ。

玲美の家の付近を晒されたことについても色々考えなければならない。

「それじゃ遅い」

琉偉が冷たい声で言った。