第75話
そこでふと今撮影しているドラマの琉偉のキスシーンを思い出し、私が初めてであることをやけに嬉しがる琉偉に少し嫌味を言いたくなってしまった。
「まあ琉偉は初めてじゃないだろうけどね」
私の言葉に、うつむいていた琉偉が不思議そうに顔を上げる。
「綺麗な女優さんとのキスなんて何回もしてるでしょ? そんだけ顔がよけりゃ付き合うのだって初めてじゃないだろうし」
琉偉はしばらくきょとんとした後、「ああ、」とようやく理解したように相槌を打ってきた。
「あんなのただの皮膚と皮膚の接触だよ。演技でするキスに関しては全く感情入ってないし、芸能活動始める前はそれなりに女の子と付き合ったりもしてたけどおままごとみたいなもんだったし……」
「ふーーーーん? あっそ」
「もしかしてゆきちゃん嫉妬、あ゛っ、痛ッ、痛い痛い!」
経験の差を感じてムカつき、座っている琉偉の股関を踏みつけてグリグリすると琉偉は案の定痛みで苦しみ始めた。
「収まった?」
「ゆきちゃん、鬼畜……!」
さすがに可哀想なので足を下ろしてやると、琉偉が痛そうに股関を押さえながら言ってくる。
「本気で好きになったのはゆきちゃんだけだよ。俺のゆきちゃんへの愛の重さ知ってるでしょ」
まあ、それは嫌というほど知っているけれども。
「私嫉妬深いから。演技で他の女とキスする時は私にも百回キスしてくれないと許さないけど、いい?」
会計のための呼び出しボタンを押しながら聞く。
元来オタクに対しても独占欲が強い私である。彼氏なんてできたら超ワガママになるに決まっている。
「千回してもいいよ?」
しかし、琉偉は私の面倒臭さなんて何とも思わないようであっさりとそう返してきた。
「ていうか、俺がしたい。百回じゃ足りない。……今する?」
「いや、今はだめ」
「やだ。しよ?」
「だめだって、今会計ボタン押したしすぐ店員さん来るから」
「そんなの関係ないよ。誰に見られたっていいよ俺は。それよりゆきちゃんとイチャイチャしたい」
俳優が言うことじゃねえ……!!
と危機感のなさに絶望しているうちに店員が個室に入ってきて、私が琉偉を殴って大人しくさせてその場は終わった。
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