第74話

嬉しいと思ってしまった。


結局こうなるのか……という諦めのような感情とともに、少しだけ前に進んでみようという気持ちになる。



「私、あんたが思ってるような人間じゃないかもしれないよ?」



オタクは私のことを理想というフィルターを通して見ている。画面越しに応援していた頃は好きだったけど、実際付き合ってみると思ってたのと違ったな、なんてこと当たり前にあると思っている。だから念のため確認をした。



「いいよ。ゆきちゃんはありのままでいてほしい。俺が勝手に崇拝するから」


「崇拝しちゃだめでしょ。私たち、対等な恋人になるんだから」



私の言葉に、琉偉が目を見開く。


もういい、負けだ。こんな奴がそばにいて惹かれるなという方が無理な話だろう。




「さっきは意地張って泣かせてごめん。私も琉偉のことが好き」




初めて人に告白をした。口にしてみれば何をこんなに躊躇っていたのだろうと思える。こんなに簡単なことならば、さっさと言ってしまえばよかった。


正面にいる琉偉が急に椅子から立ち上がってこちらへ回ってきた。思わずこちらも立ち上がって逃げようとしたが、背後にガラスがあり追い詰められてしまった。


いつの間にか琉偉が近くまで来ていて、私を閉じ込めるようにガラスに両手をつく。



「足りないよ、ゆきちゃん」



壁ドン……いや、ガラスドン!?



「もっと言って」



琉偉の顔が近づいてきて、ねだるように熱っぽい視線を向けられる。



「……何を?」


「好きって」



一回言えば十分だろ! 何回も言わせんな恥ずかしい!



「何回も言ってたらありがたみなくなるのでは? と思う派なんだけど」


「ありがたみあるに決まってるでしょ。ゆきちゃんの言葉は全部尊いよ。何回発せられても尊いよ」


「こういうのは大事な時に言うもんだから」


「恥ずかしいの? ゆきちゃん。顔赤い。かわいい」



私を愛おしそうに見下ろしてくる琉偉は、しばらく退いてくれそうにない。



「そりゃ恥ずかしいでしょ。私、異性に直接好きって言うの初めてだし」


「…………え?」


「え?」


「俺が初めてってこと?」


「そうだけど?」


「俺がゆきちゃんの初カレ?」



男女交際の経験は今までないため正直にこくりと頷くと、退く気配のなかった琉偉が急に私から距離を取り、私がさっきまで座っていた椅子に腰をかけて自分を落ち着かせるよう頭を抱えてうつむいた。まるで急に貧血になったようにも見えたため、「大丈夫?」と聞いてみる。



「ごめん、下半身反応しちゃった……」



最低かよ。台無しだよ。

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