第73話
「琉偉。一度しか言わないからよく聞いて。私はあんたのこと――」
「ちょ、ちょっと待って!」
がタッ!!と大きな音を立てて琉偉が立ち上がる。
「……何?」
「……今何言おうとしてる?」
「告白しようとしてるだけだけど? あんな形で気持ちを知られたのは非常に不本意だし、バレてしまった以上ちゃんと本人にも伝えるのが筋じゃない?」
「待って。俺今日カメラも録音用のレコーダーも持ってないよ」
「何で録音しようとしてんだよ。普通に聞けよ」
私のツッコミで少し落ち着いたのか、琉偉はようやく席についた。まだ緊張しているらしく、ずっと俯いていて目が合わない。
「……やっぱりやめた」
私はそんな琉偉から視線を外し、ぽつりと呟いた。
「え、」
「まだ心の準備ができてないみたいだから。今言ったら、あんた爆発しそうだし」
ちょうどその時オムライスが運ばれてきたので、琉偉にナイフとスプーンを渡して自分の分の卵に切れ込みを入れて開いた。外でオムライスを食べるのは久しぶりだ。さすが店の人が作ったオムライス、卵がふわとろである。
私の意識は完全に琉偉よりオムライスの方にいったのだが、琉偉が私を引き戻してくる。
「何も言われないまま放置された方が俺爆発するよ? 考えすぎて夜も眠れないよ。ゆきちゃんの言う告白っていうのが、何の告白かも分からないし……俺の期待してることとは別の告白かもしれないし……相手のことを好きすぎて相手も自分のことを好きだと思い込む心理学的な錯覚かもしれないし」
「じゃあもう錯覚ってことで。それより、このオムライスすごくおいしいけど食べないの? 冷めるよ」
せっかく来てるんだから温かいうちに食べろという目で見つめ返すと、琉偉はようやくスプーンでオムライスをすくい始めた。まだ悶々としている様子だが。
――そこから食べ終わるまで、私たちは終始無言だった。
コップの中の水も飲み干し、そろそろ会計でもするかと思い店員を呼び出そうとしたその時――
ボタンを押そうとする私の手首を琉偉が掴んだ。
琉偉と視線が絡む。その顔はもう照れていなくて、真剣な目をしていた。
「……琉偉?」
「――俺は好きだよ」
痛くない、けれど振りほどけない力で掴まれている。
「ゆきちゃんのことずっと好きだった。画面越しに見てた時からずっと。でもこうして直接話せるようになってからはもっと好きになった」
「……うん」
「今まで言ったことなかったかもしれないけど、俺、雪ちゃんと付き合いたい」
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