FILE6. 告白

第72話

地下一階の駐車場は、ひんやりとした空気が漂っている。



【今撮影終わったので、あと十五分くらいで琉偉がそちらに向かうと思います。大急ぎで着替えてる様子なので、十五分もかからないかもしれませんね】という藤井さんからの連絡を受け取り、私は車から外へ出て腕組みし仁王立ちで琉偉を待っていた。


好きな男を待つ態度ではないのだが、これくらいの気持ちで挑まないと柄にもなく照れてしまいそうだ。


なぜなら私は――異性に告白した経験などないのだから。



緊張しながら待っていると、すぐにこちらへ近付いてくる足音がした。


顔を上げる。撮影後に急いでやってきたのか髪が少しボサついている琉偉がいた。



「あ……ゆ、ゆきちゃん、」


「撮影お疲れ」



琉偉が何か言おうとするのを遮った。


見たところ藤井さんはいない。二人の時間を作ると言っていたのは本当だろう。



「ちょっとツラ貸してくれる?」



私の今の形相は、まるで急に目立ち始めたライバル校の不良を喧嘩に誘うベテラン不良だろう。


私の顔があまりに怖いのか、琉偉は「……ハイ」とか細い声で答えた。




 :



撮影が行われたビルの中に、個室予約できるオムライスプレートの店があることを教えてくれたのはこれまた藤井さんだ。


芸能人がよく来る場所のため、このビル内の飲食店は大体個室完備らしい。


私は無言でその店へ向かった。オムライスを選んだのは単純に私が好きだからだ。



席に座り、琉偉に「何がいい?」と聞くと「ゆきちゃんと一緒のがいい」と即答するので、同じものをタッチパネルで二つ注文した。


高層階なので、外にごちゃごちゃしたビル群が見え、その向こう側に海が見えた。いい天気だ……。



「あの、ゆきちゃん、さっきはごめん」



外の景色をぼんやり見つめていると、琉偉の方から先に話しかけてきた。


その言葉でようやくそちらを向くと、琉偉が嬉しそうにぱあっと明るい笑顔を浮かべるので本当に懐いてる犬みたいだな……と思った。



「何が」


「ゆきちゃんに対して声を荒らげちゃったから……」


「……私も頑なだった。ごめん」



素直に謝ると、琉偉が目を見開く。


私が謝罪するのがそんなに珍しいか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る