第66話
「……は?」
『すみません、琉偉もさっきまで後部座席で寝てたんですが、貴女の声を聞いて目が覚めたようで……』
「は、はぁ!?」
『いやあの、言い訳をさせて頂くと、僕も雪さんがここまでご自身の感情を僕に大暴露するとは予期していなかったというか、琉偉も仕事で疲れて大爆睡してましたし、このような事態になるとは僕も思ってなくてですね。……てへっ』
てへっじゃねえよ?
さも僕は悪くないんですみたいに言ってくるけど、“どういうところが好きか”は聞かれてるの分かっててわざと言わせたでしょ!?
申し訳ないなぁと思ってる風を装うなよ!
「今の発言全て撤回します冗談でしたありがとうございます」
『誤魔化さなくていいんですよ? 雪さんが琉偉のことを大好きなのは僕にも本人にも十分伝わりましたからもう遅いです。どんなところが好きかって聞いてもすぐ答えてくれたじゃないですか。就職面接の練習してきた就活生くらい即答だったじゃないですか』
「うわあああああやめろおおおおお」
雄叫びをあげ、勢いで通話を切ってしまった。
――――……迂闊だった……!!!!
なんてことをしてしまったんだろう、私は。次の琉偉とのビデオ通話でどんな顔すればいいんだ。
何もなかったようにはできない。台無しだ。このままただのオタクとセクシー系ネットアイドルの関係に戻る予定だったのに。
意外とツッコむところはツッコんでくる琉偉なら絶対に好き発言について聞いてくる。だめだ、解約させないと。琉偉を【養いプラン】の会員から除外して、ビデオ通話のサービスを受けられなくすれば……いやでも何もしてないオタクを強制的にブロックするなんて“ゆき”のやることか?
ただでさえ炎上の件で考えることが多いのに、考えなきゃいけないことが余計に増えて、ぐるぐるぐるぐると脳内を駆け巡る。
……倒れそうだ……。
こんなに汗をかいたのは高校時代体育でバスケットボールをした以来である。
しばらく何もできずに放心してしまった。
「ゆきちゃん!」
落ち着け雪、何か聞かれても白を切り通せば……。
「ゆきちゃん、いる?」
ヤバい、幻聴まで聞こえてきた……。
「雪さん、出てきてください!」
…………いやこれ、幻聴じゃないな?
外から聞こえてくる声。私の部屋はマンションの二階だ。
おそるおそる窓を開けると、そこには停車した一台の車と、帽子とサングラスを着用した琉偉とスーツ姿の藤井さんが立っていた。ひぃっ……!!
「なななな何で私の家知ってんだ! ……いや知ってたかそういえば!」
琉偉、私の住所くらい把握済みだったわそういえば!
「ごめん俺、今次の撮影があるからすごく急いでて、だからあんまり時間ないんだ」
じゃあさっさとそっち行けよ!
「安全運転の僕がわざわざスピード飛ばしてきたんです、さっさと降りてきてください」
「誘拐させてよ、ゆきちゃん」
何でこいつらこんな強引なの? ヤクザなの? 誘拐って何?
「雪さん、早く降りてきて頂かないと我々はここに居座り続け、このマンションの他の住人には不審者として扱われ、琉偉は撮影に遅れることになりますが、それでもいいですか?」
その脅しを聞いて、降りないと面倒なことになると強く感じた。それに、ただでさえ焦っている今の自分にこの状況を解決する策を思いつけるとは思えない。
諦めた私が「……分かりました。急いで準備するんでちょっと待ってください」と窓を閉めようとすると、
「飛び降りてきていいよ。受け止めるから」
琉偉が大きく両手を広げた。いやいやいや……。
「私を自由落下させれば鉛直方向に重力加速度が加わって受け止める衝撃は私の体重以上のものになるけど大丈夫?」
「ゆきちゃん、意外と物理選択なんだね……」
真っ当な指摘をしてみたが、琉偉は変わらず真っ直ぐな目で私を迎えようとする。
「この高さなら耐えられるから自由落下してきていいよ。俺早くゆきちゃんに触れたい」
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