第63話

帰宅してから二十分の過眠を取った私は、アラームと共に起き上がり、机と向かい合ってパソコンを開いた。



【不安にさせてごめん。この写真について説明します】



冷静になってから打ち込んだオタクたちへのツイートの始まりは、私にしては優しい言葉だった。


私は玲美と空斗と三人でプリクラを撮影した時の写真を引っ張り出してきて、玲美と空斗に許可を得たうえで、玲美と空斗の顔の一部を隠してアップする。



【この二人は私の大学の友達です。具体的な住所を送ってきた方もいますが、それはここに写っている私の女友達の家なので、該当のツイートは消去して頂きたいし、行き過ぎた行為には法的な対処も考えています】



カタカタカタ、と無機質なタイピング音が一人きりの室内に響く。



【この写真の男と恋愛関係である事実はありません。最近は三人でよく遊んでいるのですが、こちらの写真は解散した後二人で近くの駅まで帰っているわずかな時間を撮影されたものです。これ以前は三人でいたため、わざわざ二人の部分を切り取った悪意のあるアンチによる盗撮だと判断しています】



何一つ嘘は付いていない。空斗の胸を張れ、という言葉にも後押しされ、ツイートを続けた。



【この二人は私の活動とは無関係の学生です。良心があるなら、これ以上このツイートを誤った形で広めることはお控えください】



私は普段敬語でツイートしないので、その部分でも真面目に言っていることは伝わるだろう。このツイートをどう受け止めるかはフォロワー次第だ。



【最後に】



私は少し考えた後、最後に正直な気持ちを付け加える。



【今回は誤解でしたが、私は現実に恋人ができた場合も君たちオタクにその存在を隠す気は一切ありません。“今のところ”恋人がいないだけであり、私だって恋はします。今後ずっとそういった相手ができないとは言い切れません。ネットアイドルを名乗っておいてそれはどうなんだ、という意見もあるかもしれませんが、無所属の個人にそこまで求めないでください】



私は活動の中で“オタクのために恋愛をしない”と言ったことは一度もない。まるで恋愛をすることが悪かのように叩いてくる人たちの誤解を解かなければならない。私は恋愛禁止を謳っている事務所所属のアイドルではない。



【私は貢いでくれるオタクたちのことが大好きです。だからこそできる限りそういう人たちに対しては正直にいたいと思っています。私の恋人の有無でオタクの数が減るとしても、求められたら真実を返します】



書ききって、送信が完了したのを確認してからパソコンを閉じた。


ビジネスとしてはゼロ点だ。私のガチ恋オタクは一定数いるし、FanMomで私の有料プランに入ってくれている人は“ギリギリまで露出された裸体をただ見たい人”か“ガチ恋している人”がほとんど。ガチ恋している人が離れれば、収入面ではかなり大きな痛手になる。



だけど私は、自分のことに関して嘘をつきたくないのだ。


嘘で塗り固められた自分を好かれても、そんな自分の活動を応援されても嬉しくないから。



オタクたちに対して率直な意見を言うならば――ありのままの私を愛せよ、というところである。

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