第62話

先程別れたばかりの空斗からの着信だった。



受話器のマークを押して出ると、



『お前、出て行くのはえーんだよ! 言いたいことだけ言って出ていきやがって。こっちはまだ話終わってねえっつの』



と何故かお怒りの空斗の声がした。



「……ごめん、文句はいくらでも聞く」


『いや、そうじゃなくて。お前Twitter社に消去依頼出したか?』


「消去依頼……」


『そこまで頭が回ってねぇの、やっぱ冷静じゃねーだろ。いいか? 今から俺が言うことメモして実行しろ』



電話の向こうがペラペラと説明を始めるので、慌ててスマホを耳から離してメモアプリを起動した。


該当ツイートのスクリーンショット、ツイートをしたアカウントの情報もスクショ、ツイートのURLメモ……さすが誹謗中傷が多そうな活動をしている空斗、変なリプライをされた時の対処にも慣れているようだ。空斗の説明に従って“個人情報の投稿についての報告”というところから該当ツイートのリンクを貼る。最後にメールアドレスとフルネームで署名して送信した。



『それで依頼は出せてるけど、受理されるまで時間はかかる。お前も動揺してるだろうけどな、落ち着いたらファンには早めに説明した方がいいぞ。お前が何も言わなかったら玲美の住所と俺らの写真が変に広がっていくだけだ』


「うん……そうだね、ありがとう」



空斗のおかげで一つ、事が進んだ。



『胸張れよ。俺らなんもねぇし、わざわざ玲美がいないところ写真に撮ってそれっぽくしてんのはただの悪意の塊だろ』


「それはそうなんだけど、正しいか正しくないかを判断するのは私のオタクなんだよ。事実なんか関係ない。インターネットに一度投稿されたものを完全に消すのは難しいし、あのストリートビューだって何人に保存されたか……玲美の家に誰か押しかけたらどうしようって考えると、冷静になれない」


『いつもみてぇに強気でいればいいだろ。お前のツイートたまに流れてくっけど、ファンに対してクッソえらそーに反論してるじゃん。玲美もいつものお前じゃないって心配してたぞ』


「……何、空斗私のツイート監視してるの? キモい」


『あ゛ァ!? 流れてくるだけだわ! てっめ、俺がちょっと優しくしたら調子乗りやがって。もう切るからな』



ブツッと通話を切られ、それ以降何のメッセージもなかった。


空斗にも迷惑がかかっているのに、空斗なりに同じ活動者として私のことを考えてアドバイスしてくれたのだ。……私って友達に恵まれてるな、と思った。




すぅ~はぁ~と深呼吸して、再び歩きだす。


そうだ、冷静にならなきゃいけない。いつもの調子に戻らなきゃ。


消去依頼はした、後は消えるのを待つだけだ。


私に今できるのはオタクたちへの説明。


家へ帰って一旦寝て思考がクリアになってから、どう説明するか考えよう。

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