第60話




翌日、色々考え込んでしまってなかなか眠れなかった私は大寝坊してしまい、慌てて飛び起きた。自宅近くのコンビニに駆け寄りおにぎりとお茶を購入してから駅まで走った。いつもの電車に駆け込んでから、鞄の中のスマホを開く。


玲美と空斗と私のグループラインに空斗から【クソデケーカマキリいんだけど!!】と深夜に写真つきのメッセージが来ていて吹き出した。空斗は昨夜同学科の友達と飲み会をしていて、飲み屋が閉まった後は明け方まで自宅近くの公園で飲んでいたらしい。私たちの中では一番ウェイウェイしている部類の人間だ。


カマキリ報告に対して【デカ!!!!】と反応を示している玲美にもツボりながら、一旦LINEを閉じて今度はTwitterを開く。



――通知の数がいつもと桁違いなことに違和感を覚える。


私昨日そんな大した投稿したっけ?と思った。オタクへの単純接触効果を期待して毎日一ツイートはするようにしているが、それでもこれほどリプライが来たことはない。


昨日の自分のツイートをタップすると、リプライの一番上に、アイコン初期設定の不気味なアカウントから写真つきのリプライが来ていた。



【ゆきさん、ひどいよ】



スクロールすると、空斗に触れている私を後ろから撮影した写真が出てきた。


私の顔がちゃんと判別できる距離――かなり近い、と感じてゾッとする。



その前のツイートにもリプライが来ていたので見ると、



【オタクのことを恋人だなんだと言っておいて、プライベートではイケメンの同級生とヤりまくりのクソビッチ】



というコメントと共に、私と空斗が玲美の家に入っていく写真があげられていた。


これは私と空斗二人なわけじゃなく、玲美が先に家に入って片付けている途中の写真のはずで、これより前は玲美も一緒にいたはずだし、こんなことを言われる筋合いはない。



初期設定のアイコンをタップしてアカウントを見るが、最近作られたばかりの捨てアカウントのようだった。自己紹介欄のコメントは【アイドル気取りの露出女ゆきの不貞を許さない】。


スクロールすると、私への悪口引用リツイートの嵐だった。【ブス】【非処女は無価値】【嘘つきの詐欺師】――酷い言葉が沢山並べられている。



私への写真リプライに対しては他のオタクからの割り込みリプライも多く並んでおり、これが大量通知の主体のようだった。



【これどこで撮ったの?】


【うわ、これは……】


【嘘でしょゆきちゃん】


【かなりショック】


【加工おつ】


【みんな叩きすぎじゃない? ゆきも女子大生なんだから恋愛くらいするでしょ】


【相手イケメンなのが無理】


【結局顔よくて若い奴に股開くのかよ】


【イベント行った金返して】


【乳首すら映さないグラビアアイドル気取りのこいつに金おとすだけ無駄。その金でAV買える】


【FamMomの登録解除します】


【どうでもいいからハメ撮りはよ】


【この活動も彼氏とのプレイの一貫じゃないかと思うと吐き気する】


【ゆきに彼氏いないと思ってるとか(笑)みんな夢見すぎ(笑)】


【ゆきとのチェキ全部包丁でズタズタにしといた】



荒れまくっているリプライの数々を流し見ていると、途中に【特定しました\(^o^)/】というリプライがあり血の気が引いた。


そこに書かれていたのはGoogle Mapsのストリートビューの写真と、玲美の家の付近と思われる住所だ。





頭が真っ白になる。


私に何を言われたっていい、中傷くらい慣れてる、でも――……玲美は、関係ないでしょ。

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